2012年11月7日

大学設置不認可問題で

日本で、田中文部科学大臣の発言が話題になっているようだ。3大学の新設申請を認めないとした発言である。ネットで新聞記事を読んだだけだが、考えさせられる点が多い。いくつか整理しておきたいと思う。今朝がた読んだ記事は、以下の2つである。
真紀子氏は「知らなさすぎる」 …設置審委員(記事A)

 「新しい仕組みを始めたい」――。
 3大学の来春開校が不認可とされた問題で、6日、田中文部科学相は不認可の正当性を強調しつつ、大学設置の新たな基準で「再審査」を行うことを表明した。
 「見直し」方針が決まった諮問機関の大学設置・学校法人審議会(設置審)の委員の1人は「田中大臣は設置審について知らな過ぎる。設置審には大学関係者以外の委員もいるが、審議の内容があまりに専門的なため、ほとんど発言できていないのが現状」と指摘。そのうえで、「大学の質の低下や数の問題は国の規制緩和が招いたこと。個々の大学についての審議の内容の見直しをしても、その根もとの部分が変わらなければ意味がないと思う」と話した。
(2012年11月6日20時21分  読売新聞)
文科省「不認可処分でない」 ...3大学『詭弁だ』(記事B)

 秋田公立美術大(秋田市)など3大学の新設が不認可とされた問題で、文部科学省の前川喜平官房長は6日になって、「(現在も3大学の)不認可の処分はしていない」という説明を始めた。
 田中文科相は同日、3大学を事実上、再審査する方針を表明したが、不認可処分が決定された後では、処分取り消しの行政訴訟の対象になるうえ、正式な審査では申請書類の再提出が必要になり時間がかかることを考慮したとみられる。だが、「不認可」「再審査」と翻弄された3大学は強く反発している。
 前川官房長は同日の田中文科相の記者会見の後、補足説明を行った。この中で、2日に同省高等教育局長が3大学に不認可を伝えたことについて、「大学側には認可できないとは伝えたが、不認可処分をするとは伝えていない」と弁明した。
 また、今月2日に報道陣に不認可と説明した担当課長が、「大臣の不認可決定は今日。あくまでも大臣の政策的な判断で、不認可という結論」と述べていたことについて、前川官房長は「事実とは違った。訂正して謝罪したい」と述べた。不認可処分の大臣決裁も済んでいないとした。
 これに対し、3大学側は「文科省から電話で『不認可である』と説明があった」「詭弁(きべん)だ」と反発した。
(2012年11月6日21時51分  読売新聞)
Aの記事から見てみよう。見出しは「真紀子氏は『知らなさすぎる』」である。これは、大学の設置審議会の委員の発言として紹介されている。1ヵ月前に文部科学大臣に任命された人が大学の設置審議会についてよく知らなかったわけだが、これって批判に値することだろうか。そんなことまで詳しく知らないのは当たり前。

また、この委員は「設置審には大学関係者以外の委員もいるが、審議の内容があまりに専門的なため、ほとんど発言できていないのが現状」と述べているようだが、これってありかな? つまりは、審議の内容は専門性が高いため大学関係者である一部の委員のみにしか理解できないようになっている、と云うわけだ。設置審ってそんなに複雑で難解なことをやっているの? 委員が何名いるか知らないが、大学関係者以外の委員には分かるような説明すらなされないままになっているとしたら、そちらの方が問題である。

もうひとつ気になったのは、記事上でこの委員の名前が明らかにされていないこと。これは報道するメディア側の問題。ひょっとしたら書かれている内容自体が事実ではないかもしれない点を読者は考えておく必要がある。

Bの記事。対象となった大学が述べているとおり、この官房長の言っていることは、詭弁である。

ところで、自民党の安倍総裁が「既に決めたことをこんな形で急に変更するのは間違っている」と批判したそうだが、この指摘は的を射ていない。学校教育法では、
・大学設置の認可権者は、文部科学大臣(第4条)
・認可の際に、文部科学大臣が大学設置・法人審議会に諮問する(第95条)
と定められており、「答申どおり決定」というのはこれまでの慣例に過ぎない。過去30年間にわたって答申が覆されたことは一度もないと報道されているけど、そちらの方がよほどおかしい。認可権者たる大臣が自らの判断で答申を覆すことは、制度上は間違っているわけではない。

推測だが、田中文科相はこうした手続き論だけで物事が決められてきた現状そのものが不満だったのかもしれない。

これを契機に、委員会のメンバーですらその一部の人しか内容を理解できない(ように仕組みが作られている)審議の在り方を根本的に見直すべきである。

新聞やテレビなどのメディアは一斉に彼女へのバッシングを始めたようだが、この機に根本的に考え直さなければならない多くの重要な点を掘り下げて欲しい。