2022年6月26日

F/A-18と腕立て伏せ

「トップガン マーヴェリック」をIMAXシアターで。お話は簡単で子供にでも分かるものだが、よく練られている。

トム・クルーズ演じるマーヴェリックと、彼の教え子たちともいえる若い選りすぐりのパイロットたちが主人公。だが、本当の主人公は戦闘機F/A-18とF-14だ。これらの飛行シーンには度肝を抜かれる。

磨き抜かれた技術で最新鋭の戦闘機を扱うパイロットたちだが、かれらが何かにつけて「罰」として腕立て伏せをさせられるシーンが妙に印象に残った。このコントラストが面白い。単なるストーリー上の演出ではなく、アメリカ海軍では実際にやっているんだろうな。

映画の冒頭あたりで、今後さらに技術が進めば戦闘機乗りは不要になっていくと上官に言われたトム・クルーズが「そうだろうが、それは今日ではない」と返すシーンがあった。

肉体と意思をもった人間を忘れるべきではないという制作者のメッセージである。


2022年6月25日

小田嶋隆さんがなくなった

コラムニストの小田嶋隆さんがなくなった。65歳。面識はないが、同じ時期に大学の同じキャンパスにいたはずである。

訃報で「反骨のコラムニスト」「反権力のコラムニスト」と彼が呼ばれているのは、日本ではそうしたはっきりものを言う文筆家があまりに少ないから。

彼のことを詳しく知っているわけでも思想的な背景を理解してるわけでもないが、書かれたものを読む限り、彼は反骨ではあっても反権力を標榜したわけでもないように思う。彼には右も左も関係なく、理屈に合わない考えやそれにもとづく言説を黙って認めることができなかったリベラリストであっただけ。

そうした彼に「反権力のコラムニスト」というレッテルを貼ったのは、恵まれた組織内にいるがため直言したいが彼のようにはできないメディア人たちだ。

2022年6月22日

2年半ぶりの国際学会出張

コロナ前の2020年1月、ハンガリーのブタペストにいた。学会発表のためだった。

現地では学会後にサーカスを観に行った会場で、現地駐在の日本人夫婦の方と偶然に知り合い、その後食事を一緒したり、帰国後もメールのやり取りをしたりで、思いがけず記憶に強く残る旅になった。

それは一例だが、日本を出て海外に行くと、たいていは新たな出会いや発見がある。それもあって海外の学会に出かけることを続けていた。

だが、中国武漢発のコロナウイルスが一気に拡がり、海外への渡航は一切禁じられた。その後のことはここに書くまでもない。人の移動が制約され、ネット上で展開するヴァーチャルなコミュニケーションにいつの間にかわれわれは違和感を感じることがなくなった。

それから2年半が過ぎて、やっとまあまあ普通に海外に出かけられるようになった。最初は欧州の学会へ出かけようと思ったが、ここはまずはリハビリを兼ねて距離の近いアジアの国にしようと思った。

そこで今回のマレーシアである。マレーシアを訪ねるのは初めてだし、英国留学中に一緒だった友人がいることも背中を押した。

日本からの出国と現地への入国。そして、現地出国と日本への再入国。一番大変だった、というか翻弄されたのは現地からの出国の際の手続きだ。 

今回のフライトはJAL。現地への直通フライトを飛ばしているからだ。ただ、現地空港での乗客の搭乗手続きなどグラウンド作業は、提携先のマレーシア航空が受け持っていて、それが今回大きな問題のもととなった。

これはあくまでも個人的な評価だが、マレーシア航空のスタッフはとても真面目なのだが柔軟性に欠け応用力がなかった。しかも、以前の古い日本政府の感染防止策とその規制手段をいまも適用しようとするので、当然のようにこちらとは押し問答になる。

MySOSとかいう日本政府のアプリをスマートフォンにインストールしていないという理由で搭乗手続きを拒否された。ワクチン接種証明書も、さっき済ませたばかりのPCR検査の証明書があってもである。

そもそもMySOSというのは、もし機内で感染者が出た場合に、日本政府の検疫所がその飛行機に乗っていた他の乗客に連絡を取ることを目的としたもの。住所や名前、連絡先をデータをしていれるだけのアプリのようだ。感染拡大やその防止と関係ない。紙の用紙に渡航で利用した航空便と座っていた座席番号、日本での連絡先を記入して提出すれば済む。実際、最終的には僕はアプリをインストールするなどせず、成田空港で1枚の紙を記入しただけで済んだ。

こうしたことが、その目的を一切知らされず、また彼女らも考えることをしないので、ただただ教条的に以前言われたとおり、そのアプリがないと搭乗手続きを行わないと言い張るだけ。

結局、カウンター周辺にいた、つい10日ほど前に日本からやって来たという日本航空社員が取りなしてくれて搭乗手続きができて機内に入ることができた。彼がいなければ、僕はその便には乗機できなかった。

コロコロ変わる日本の厚労省の政策と未徹底な通達。意味を理解しようとせず、機械的にしか仕事をしない現地スタッフ。日本から着任したばかりで、そうした現地スタッフをまだ掌握できていない日本の航空会社の社員。と、今回の問題の所在は多層で多岐にわたっていた。

最後の最後、現地の空港でのやり取りは、今思い出しても腹がたつことばかり。もともとコロナがなければこんなこともなかったと自分を慰めるしかない。

ところで今回の学会では、最終日のセレモニーで僕の研究発表に対してDistinguished Academic Award(4名が受賞)が与えられた。こうしたことがなければ、もう2度と彼の地は踏んでやるかと怒り心頭だったはず。せめてもの救いかな。 

 

ペトロナス・ツインタワー。観光デッキに昇る予約は今も一週間待ち

  
ホテルの部屋から見えたKLタワー

ヒンドゥー教の聖地「バトゥ洞窟」から見下ろす

日本への直通便は夜便のみ。昼間の時間を使ってマラッカへ足を伸ばした。

2022年6月13日

男女役員数の均衡化義務の意味

日本の話ではない。まずはEU(欧州連合)を中心とした話をしよう。

EU各加盟国と欧州議会が、それらの地域において上場企業の女性取締役比率を増やすための規制案に合意した。

対象となる企業は、2026年6月末までに社外取締役での女性比率を40%以上にしなければならない。このことは、各国で2年以内に法制化することになっている。

また、社外取に限らず全取締役の枠組みで見ると、男女それぞれの取締役の比率を33%以上にするという方針になった。

男女平等、機会均等の考えのもと、女性が企業の取締役にとどまらず、あらゆる場で責任のあるポジションに就くのは大いに結構だと思う。

だが同時に、こういった単純極まりないクオータ(割り当て)の発想には、大いに疑問がある。

先のEUと欧州議会の合意だが、形式的に数字を作るのは阿呆でもできる。たとえば、社外取締役をすべて女性にする。そうすれば、社外取締役の女性比率40%以上も、また全取締役の女性比率33%以上もクリアできる。だが、それが果たして企業経営にとってプラスになるか。

なぜか。今回、そもそも上場企業に限ってのルール設定をしているのが、それが納得いかない。上場企業と非上場企業でなぜ線引きするのかの説明がなされていない。

また、日本企業の社外取締役に見る女性の状況は、以前から極端なインフレ状態にあると言われている。東証の基準をクリアすることを目的としているため、その多くは取締役の内実を伴わない形式優先との批判はあながち間違いではないだろう。

以前、建設機械メーカーであるコマツの相談役、坂根正弘さんと対談したときのことを思い出した。彼は「取締役に女性をつけるのは、難しいことではないんです。社外取締役は、どこかから探してくればすむ」「だが執行役員に女性をつけるのは、社員の採用から始まって、時間をかけて育成しなければならならず、一朝一夕にはいかない」と話してくれた。まさに正論だと思う。

形式要件を満たすために女性の社外取締役を増やす企業があとを絶たないが、その結果、そうした企業が今後どうなっていくか。

IMDなどの調査結果を見るまでもなく、日本企業の国際的な競争力が急低下してる状況の下で、こんな発想で見せかけのガバナンスを行っていることを「経営」だと思っているマネジメントが実に多い。

2022年6月12日

総長決定選挙

総長決定戦の投票締め切りを間近に控え、各候補の選挙活動が続いている。今回の総長戦に立候補しているのは、現総長を含め3名。

僕は来週から海外出張に出るので、その前に投票を済まさなければならない。といっても、レターパックで投票用紙を大学の選挙管理委員会宛に返送するという簡単なやり方だが。

誰に投票しようか決めかねている。前総長というのが一体何をやったか分からないような人物だっただけに、現総長が良く見えていたこともあった。が、本当に3人のなかで最適な選択なのかと迷っている。

勤務先の大学で教員を務める古くからの知り合いと電話で話したところ、その人は大学の執行部を務めたことがあるだだけあって僕なんかより学内の色んな情報を持っており、また大学サイトの選挙ページに掲載されている立会演説会などの動画をきちんと見ると良いとアドバイスされた。

大学というのは、一見、世間からは浮世離れした社会に思われがちな世界だが、ご多分にもれず人間の欲がそれなりに渦巻いているようだ。権力を求める人間の欲求は場所や環境に関係ないようだ。

2022年6月10日

気仙沼で漁師になった彼女

好きな声というのがあって、僕にとってのそうした声の持ち主の一人が松たか子だ。それが理由で、彼女がナレーションをしているNHK BSプレミアムの『新日本風土記』を見る。

今日のその番組だが、テーマは「気仙沼」。番組の冒頭で、いきなり知り合いの娘さんが画面に現れた。

実は、新聞のラテ欄で「気仙沼で都会から移住し漁師になった女性」という番組説明を見たとき、ひょっとしたら・・・、とは思っていたのだけど。

彼女は横浜生まれの横浜育ちのはずだ。大学卒業後は青年海外協力隊の隊員として何年間かアフリカのマラウイで活動をしていたと聞いていた。それだけで、突然「私、漁師になる」と言い出したとしても、なんとなく納得できそうな感じがする。

僕は彼女に直接会ったことはないのだが、彼女のお母さんにお世話になったことがあり、その子が震災復興のボランティアとして宮城でいろんな活動をしているとか、数年前から漁師になりたくて気仙沼の船頭のもとに通っていると話には聞いていた。

テレビに映る彼女は、華奢な見かけではあるがとても逞しく見えた。網やロープを日々扱う彼女の手がアップで映る。若い彼女の手は、カサカサで荒れ放題だ。爪のところから血が滲んでいる。彼女はそれを喜んでいるわけではないが、ちょっとした勲章のように感じている節も窺える。

番組終了後、彼女の母親に「NHKの番組、見ましたよ」とメールしたら、「日焼けがどうの、美白がどうのとおしゃれにばかり気をつけていた高校生時代とは全く違ってますね。なんだか母の私にも手の届かないところまで行ってくれたようで嬉しいです」と返信があった。

思いもしなかった夢を追いかける娘が心配で仕方ない一方で、親元から遠く離れ、親たちの想像を超えた逞しさで自分の生き方を突き進む娘に、大きな希望を感じているように僕には思えた。

そんな彼女には、赤の他人ながらとにかく元気で、思いっきりやってほしいと願っている。

2022年6月7日

株主総会招集通知も少しは進化したら

6月の下旬は上場企業の定時株主総会の時期。各社から「招集ご通知」が送られてくる。

どれも昔から同じスタイル。サニタイズされた表面的で型どおりな情報ばかり。決議事項は、だいたいどの企業も定款の一部変更と取締役/監査役の選任だけだ。だから代わり映えするわけない。

いつからか、取締役候補者のスキルマトリックスなる表を掲載する企業が出てきたが、それを見てもよく分からない。勝手な自己申告だろうから信憑性がなく、ほとんど意味を感じない。株主が判断する際の役に立つとは思えない。

取締役候補くらいは、ウェブサイトで自分がこれまで何をやってきたのか、どういう考え方で取締役に就こうとしているのかを株主などに語りかける動画くらい掲載したらどうだろう。

やろうと思えば簡単にできるはず。「前例がないからやりません」って? そーかい、だからあんたたちダメなんだヨ。総会をもっと爽快なものにしようという発想でも持ったらどうだ。

2022年6月6日

「なぜ日本は没落するのか」

ノーベル経済学賞候補と言われた森嶋通夫さんは、日本と英国を行き来しながら日本の行く末について考察していた。

その彼は、1999年に著した「なぜ日本は没落するのか」で50年後、つまり2050年頃の日本について「国際的発言力のない没落した国に落ちぶれている」と予言した。

なぜ50年後を彼は予言できたのか。あるいは、予言できると考えたのか。おそらく彼は、その当時の学生たち、二十歳前後の若者を見て50年後の日本の行く末を予言したのだ。 

日本では政治の世界においても経済の世界においてもリーダー的ポジションにいるのは60代後半から70代のオッサンが中心であり、50年後にどうなっているか、彼は当時の教育の場の状況とそこにいる若者らを見て予測したのである。

日本の戦後の学校教育は知識偏重で「価値判断を行う能力」「論理的思考で意思決定を行う能力」の涵養を疎かにしていて、そして50年後にはそれらの教育を受けた人間が政官財の指導者になっているはずだから日本は没落する、と考えた。

森嶋の基本的な認識は、現在の日本人は堕落したという点にある。それを断定的に述べることはここではできないが、政治はもとより経済においても、日本は没落した三流国家に成り下がってしまったのは事実だ。

彼が云う50年待たず、わずかその半分以下で到達してしまった。森嶋は、国が栄えるかどうかはその国民性にあるとしている。想像力に欠けた硬直化した発想と、右へ倣えの意思決定を範とする日本という国のスタイルがその典型である。

2022年6月4日

何ごとも訓練・・・

交通誘導員のための練習かな。近くの公園で見かけた、ちょっとのどかな風景。