2021年12月29日

古めかしいエスニック・ジョークのようなCM

政府はよほど国民にマイナンバーカードを持たせたいらしい。何人ものタレントを使い、複数バーションのテレビCMでその取得を熱心に促している。

そのCMのひとつがこれ。

 
「いまもう国民の3人に1人が持っているっていうから・・・」

と、佐々木蔵之介が話すこのテレビCMに、なんだか馬鹿にされていると感じた視聴者も多いことだろう。理屈はなく、ただ<船に乗り遅れるよ>と相手を不安がらせようとしているだけ。

船と言えば、「沈没船ジョーク」と呼ばれる各国の国民性を揶揄した鉄板ジョークがある。こんな話だーー。

様々な民族の人が乗った豪華客船が沈没しそうになる。それぞれの乗客を海に飛び込ませるには、さてどのように声をかければいいか?

イギリス人には、「こういうときにこそ紳士は海に飛び込むものです」と伝える。

ドイツ人には、「規則ですので飛び込んでください」と伝える。

アメリカ人には、「今飛び込めば貴方はヒーローになれるでしょう」と伝える

イタリア人には、「海で美女が泳いでます」と伝える。

フランス人には、「決して海には飛び込まないで下さい」と伝える。 

中国人には、「おいしい食材が泳いでますよ」と伝える。

日本人には、「もうみなさん飛び込んでますよ」と伝える。

総務省が作ったこのテレビCMが言わんとしていることは、これと同じ。「何も考えなくていいから、さっさと右へ倣えでカード作れ」って。

深層心理の部分で国民に向かって「海に飛び込めー」って言ってる。

2021年12月26日

立ち上がる女

映画「たちあがる女」は2019年作のめっぽう元気で、気が利いたアイスランド映画である。

主人公ハットラを演じるハルズ・ゲイルハルズドッテルを見ていて、「スリー・ビルボード」のフランシス・マクドーマンドを連想した。

現代のアイスランドを舞台に、その環境破壊を食い止めるために立ち上がった一人の女性を描いたユニークな作品で、自然にあふれたアイスランドの地にも環境汚染の波が押し寄せていることが分かる。中国資本が注がれたアルミニウムの製錬工場である。

アルミニウムの製錬には大量の電気を必要とするが、アイスランドは火山の国、すべての電力は地熱でまかなわれていて電気代が安い(タダ)からだ。

平原に延びる送電線をショートさせ、鉄塔を一人で爆破する彼女は一人で立ち上がり、戦いを続けている。

警察などから追われる彼女を赤外線カメラで執拗に追うドローンは中国の象徴だ。姿を捉えられないように死んだ羊の皮をまとって逃げるハットラ。途中、彼女を追うドローンをハットラが弓矢(!)で仕留め、手に握った石で叩き潰すシーンは「これが私たちのあんたへの回答よ」と聞こえた。その時、彼女は彼女のヒーローであるネルソン・マンデラの写真で作ったお面を被っている!

彼女にはオルガンと太鼓、スーザフォンの謎の3人からなる音楽隊が寄り添っていて、時に彼女の気持ちを象徴するように、時に彼女を励ますかのようにリズムを刻む。さらに3人の若い女性からなるコーラス隊もあちこちのシーンで登場する。不思議なユーモラスさを醸し出している。

映画のなか、自転車でアイスランドを旅するスペイン人の若者が方々のシーンで登場する。彼はその都度、ハットラが巻き起こす騒動に巻き添えを食わされる。気の毒だったり、情けなかったり。でも可笑しい。

太古の土地が残り、原始性豊かな自然のなかで暮らすアイスランドにも、外国からの資本が容赦なく流入し経済発展の名の下で環境破壊が行われていることへ、この映画は警告を発している。快作である。

2021年12月19日

鳥と落花生

昨日、千葉から遊びに来た友人が持って来てくれた煎り落花生をバッグに放り込んで南の島へ。横浜とは気温が10度以上違う。

ベランダでその落花生をむきながら本を読んでいると、次々と鳥がやって来る。豆の匂いなのか、殻を剥いている音なのか、それとも食べてる様子に誘われてなのか。 

人に慣れているらしく、落花生の実を投げてやると器用にキャッチする。

2021年12月16日

クリスマス前

毎週木曜午後に非常勤講師として教えに来てくれている神奈川大学のY先生と、今度ランチでもしましょう、とずっと言ってきたのが、やっと実現した。

彼と大学キャンパスを少し散策。

大隈庭園から大隈講堂を撮る。ふだんあまり見ないアングル。

演博の企画展「新派」の垂れ幕の前に飾られたクリスマス・ツリー

2021年12月13日

直島の美術館巡り

駆け足で瀬戸内海に浮かぶ直島の美術館3館、地中美術館、ベネッセ・ミュージアム、李禹煥(リー・ウーファン)美術館を回ってきた。 

特に今回の目当てだった地中美術館は、安藤忠雄が設計した独特なデザインによる美術館。建物自体が美術館のひとつの作品だ。

実は、2004年にこの美術館がオープンした時に一度訪問している。夏の暑い日だったのを覚えている。表の駐車場に延びる長蛇の列に並び、1時間近く待っただろうか。結局、暑さに疲れて諦め、入館しないまま島を去った覚えがある。

今回は、コロナ感染拡大防止のために事前予約制による入館なので、「これなら」と思い訪ねた次第だ。

そこには3人の作家、クロード・モネ、ジェームズ・タレル、ウォルター・デ・マリアの作品がそれぞれの展示室に分けられて恒久展示されている。

モネの部屋には5点の「睡蓮」が展示されていた。いずれもモネが70代半ばを過ぎて取り組んだ作品。会場スタッフの人と、モネが高齢になって煩っていた白内障がモネの作品に与えた影響について意見を交わす。

地中だけど、展示スペースには天窓が設けらえていて、柔らかな空間の雰囲気が醸し出されている。とりわけジェームズ・タレルの「オープン・スカイ」は天窓とそこから差し込んでくる光も作品のひとつになっている。

ジェームズ・タレルの会場では、彼の作品が展示されている新潟県十日町の「光の館」(2000年に越後妻有トリエンナーレのために制作)に展示されているタレル作品をめぐってスタッフの方としばし歓談。

彼女らは、本当はそうした会話は禁じられているのかも知れないけど、ほかに誰も客がいないし、こちらが話しかけると色々と専門知識を教えてくれるのでありがたい。


W・D・マリア「タイム/タイムレス/ノー・タイム」2004年

2022年は、5回目となる瀬戸内国際芸術祭(トリエンナーレ)が直島を中心に、このあたりのいくつもの島を舞台に開催される予定だ。第1回目から毎回訪問しているが、訪れるたびに新しい発見や出会いがある。

ブルース・ナウマン「100年生きて死ね」1984年(ベネッセ・ミュージアム)

ミュージアム・カフェのテラスから夕暮れの瀬戸内海を望む

2021年12月7日

LINEの国内利用者数が8600万人って本当か?

LINE Payでキャンペーン参加者の個人情報が漏洩していた。下記の記事にあるように2ヵ月にわたって外部からアクセスできる状態になっていた。


LINEは今年の3月、ユーザーの名前やメールアドレスといった個人情報に加えてトークや写真も閲覧できる状態を放置していたのが明らかになったのが記憶に新しい。

そもそも、LINE社のセキュリティに関しては、2014年頃から問題点を指摘する声も一部ではあげられていた。 

https://facta.co.jp/article/201407039.html 

それにしても、こうした記事が掲載される際にLINEについては「日本で8600万人のユーザーを持つ・・・」という説明がメディアでなされているが、どうも信じられない。

国内ユーザー数8600万人というのはLINEが発表している数字だろうが、これは全国の15歳以上すべての77%にあたる。12歳以上に対象を広げても73%だ。日本全土のほぼ4人に3人がLINEユーザーということになるが・・・。

総務省が2021年6月に発表した「通信利用動向調査」によると、2020年度の日本国内のスマホの利用率は下図のように68.2%である。しかもこの数字は「無回答」を除いたものなので、実数はそれより低い可能性が高い。

先のLINEの国内ユーザーが8600万人というのとは辻褄が合わない。


2021年12月6日

DXは、デラックスだ

最相さんの『辛口サイショーの人生案内DX』(ミシマ社)が面白かった。


新聞に連載されていた人生相談をもとに再構成したもので、相談の中身はもちろん真面目なものばかりなので「面白かった」という感想は不謹慎に聞こえるかも知れないが、最相さんの相談者の甘えをぶった切る回答姿勢は新鮮だった。

ところで、この本のタイトルのDXには<デラックス>とルビが振ってある。今流行りのデジタル・トランスフォーメーションではないところが昭和で、僕が気に入ったところ。

そもそも、今ごろデジタル・トランスフォーメーションが重要などといって口角泡を飛ばしている国家も企業も、それだけで自分たちが既に周回遅れなのが分かってるのかね。

たとえば承認プロセスのハンコをどうやってなくすかとか、紙の書類を電子化して効率化を図るなんてことを経営者が考えている段階でアウトだ。沈みゆくタイタニック号の甲板の上でデッキチェアをきれいに並び直しているようなもの。やってる感はあるが、それだけ。

大切なのはMX、つまりマネジメント・ トランスフォーメーションなのだよ。

たとえよく切れる包丁を手にしたからといって、それで素人がいっちょまえの板前仕事ができるわけではない。優れた料理の提供に必要なのは、そして繁盛する店をやり繰りするのは、客が何を欲しがっているかという理解とそれに応える技術、そして豊かな経験と想像力なのだ。 

それをなしに、日本の経営者は、何か「魔法の道具」さえ手に入れればすべてうまくゆくと考えてはいないだろうか。