2021年5月31日

あれから1年

若山弦蔵さんが亡くなった。今年は2月に森山周一郎さんも亡くなった。

ふたりとも80代後半だったから、しかたないね。お二人は昭和の時代からいぶし銀の声を聞かせてくれた。

ショーン・コネリーの声は若山弦蔵さん以外あり得なかったし、テレビで見る映画のジャン・ギャバンの声は森山周一郎さん以外考えられなかった。

森山さんにはあるラジオの仕事でご一緒したことがある。30年以上も前のこと。若造のぼくの演出にも真摯に耳を傾けてくれた。

ラジオから聞こえてくるその「声」だけで、いろんな人や風景を思い起こさせてくれる人というのが、もういなくなってしまったように思う。

ラジオというのはイマジネーションのメディア。僕の耳には、吉本のお笑いコンビがいくら早口でまくし立てても、若者に人気のなんとか坂46のムスメらがマイクの前ではしゃいでも、何も浮かんでこない。

ところで、今日で5月は終わり。1年前の今日、日記にこんなことを書いていた。「今日で5月はおわり。明日から緊急事態宣言が部分的に解かれることで、人の移動が少しずつ始まるのだろう。何が変わり、何が変わらないのか見ものである」

あれからちょうど一年が過ぎたが、なんにも変わってない!

2021年5月30日

ヒロシ君、君の言うとおりだ

裏の鶴見川沿いの土手を散歩してたら、ご近所のSさんに会った。今日は天気がよくて、風が気持ちいい。Sさんとは久しぶりで、立ち止まり挨拶をかわした。

その僕たちの横を、マスクを着けた20代のランナーが駆け抜けていった。

それを横目で見て、Sさんが「あれ、苦しそうですね」と言った。吹きさらしの土手の上をマスクをきちんとつけて息を切らせてジョギングしている、いま走りすぎた男性のことだ。

その通りである。僕が「ここでマスクなんかしなくてもいいのにね」と笑うと、Sさんの足下に立っていた小学2年生のヒロシ君が、「そんなの考えればわかるじゃん」と呟いた。

そうなんだよ、ヒロシ君。でもね、ヒロシ君よりたくさんのことを知っているはずの大人たちが、ヒロシ君にも簡単に分かることが分からなくなっている。

年齢じゃない、知識の量でもない、考え方なんだ。これを「シコーテイシ」って言うんだよ、ヒロシ君。

2021年5月29日

映画観ろよ、電車乗れよ

東京都など9都道府県で新型コロナウイルス対応の緊急事態宣言が延長されるようになった。

それにあわせたかたちで、都内などで休業要請がなされていた映画館は午後9時までの営業が可能になる。今さら何を。どういう理屈か分からない。これまでなんで自粛が必要だったのか。

再開を認める映画館の営業については、収容人数の50%を上限にするという。誰が決めたのか知らないが、劇場に足を運んでみろよ。

今日、横浜市内にある東宝系の映画館(シネコン)に行ったが、実に閑散としていた。こんな時期だからさ、しょうがないよな。僕が観た映画なんか、今回のアカデミー賞受賞作であるにかかわらず、客の入りは収容人数に対して3%(100席あたり3人)くらいか。

これが映画興行ビジネスの今の現状。わざわざ上限50%を設定するなんて、映画館に足を運ぶことなどしていない連中の考えだと分かる。ここのところずっと映画館は、いつ、どこの劇場に足を運んでもガラガラだよ。気の毒になる。

ところが、劇場に向かうために利用する電車や地下鉄はいつも満席・密で、厭な感じだ。こっちの方こそなんとかするべきだろう。政治家や高級官僚は、電車やバスで移動するわけじゃないからそれがわかんないんだろうな。

そういえばJRは、緊急事態宣言が出されたとき山手線の運行本数を削減し、その結果、電車内がいっそうの密になったという。当たり前のこと。

だがそれを要請した国土交通省はそのことに対して、「運行本数を減らせば利用者が減ると考えた・・・」と語ったとか。

明らかに論理が間違ってるが、小学生でも分かるその程度のことが役人には分からないのだろうか。

2021年5月27日

「フクシマの嘘」

ベルリン在住の作家、多和田葉子さんが書いたもので、ドイツの公共放送局(ZDF)が3・11後に製作した「フクシマの嘘」と題された番組について知った。

YouTubeで探したら、幸いなことに日本語字幕付きで掲載されていた。

 
福島の原発で、東日本大震災後に何が起こっていたのか。それらのなかで何が我々に知らされ、何が知らされなかったのか。知らされなかった多くのことは、未だに隠されたままだ。

あらためて実に悪質な東電の姿勢に呆れかえる。自己保身の塊であり、形を変えたある種のテロとも言える。

2021年5月22日

利用者軽視が生んだ情報漏洩

婚活アプリの利用者がこんなにたくさんいるなんて・・・。

Omiai という名の婚活アプリの会員情報が「流出した可能性が高い」という。ということは、なんのことはない。流出したということだろう。訳の分からないマーケットに渡ったその個人情報の数、171万人分。

会員の年齢構成を仮に25〜55歳とすると、その年代の日本の人口は約4,770万人なので、その3.6%、28人に1人の情報が流れ出たことになる。

漏れたのは運転免許証や保険証、パスポートなどの画像データ。暗号化されてなかったというから、丸見えだ。

そのアプリを運営するネットマーケティングという会社によれば、トラブルなどに備えて退会後も10年間は保存しておく社内規程にしているといい、すでに退会した元会員のデータも含まれているというから呆れる。 

トラブルに備えてというのであれば、サーバーなどにデータ保管しておかず、オフラインで、そして何よりも暗号化しておけばよかったはず。

ネット企業の考え違いのお粗末な企業姿勢であり、ほかでもない自分らがトラブル発生の元凶になった。

お客さんが気の毒。

2021年5月16日

「承知していない」を承知できるか

政治家や官僚が話しているのを聞いていて、何が言いたいのかよく分からず、ついイライラすることがある。

理由はたくさんあるが、そのひとつが彼らが頻繁に使う「承知」という言葉にある。

例えば、LINE利用者の個人情報が長年にわたって中国にある業務委託先企業でアクセス可能になっていたことを巡っての政府会見で、加藤勝信官房長官は政府高官の情報が中国側に流出したかどうか問われ、「事実関係をまず確認しており、必要に応じ適切に対応していくことになると承知している」と述べた。

ヘンな日本語。普通なら彼の回答は「事実関係をまず確認しており、必要に応じ適切に対応していく」でよい。

また、菅首相がLINEを利用しているか記者団から問われた際には、「使っておられるか承知していない」と回答した。

辞書によれば、承知の意味には以下の3つがある。

①知っていること。「いきさつは承知している」
②聞き入れること。「解約の件は承知できない」
③許すこと。「そんなことしたら承知しないぞ」

さて官房長官の「承知」はどれだろう。 

政治家や官僚が「承知していない」を使っている際には、注意する必要がある。「知らない」ことを言っているのか、「聞かされてない」と言っているのか、聞かされてるが「よく理解していない」と言いたいのか、理解しているが「自分は聞き入れてない」と言ってるのか、あるいは「許さない」と言ってるのか。

どれも「承知」の一言で彼らは表現する。きわめて曖昧で玉虫色だ。真に意味するところは、われわれ国民には到底分からない。

そういえば、「桜を見る会」に関係する懇親会について、政治資金収支報告書に3000万円ほどの収支を記載しなかったとして、安倍前首相の公設第1秘書が政治資金規正法違反の罪で略式起訴された際、安倍前首相はその3000万円の原資について「承知していない」と言い張った。

自分の事務所内で3000万円の金が動いているのを一切知らないとは考えにくい。だから彼は、「知らない」ではなく「承知していない」と繰り返した。政治家や官僚が昔から使う「記憶にありません」を繰り返すのと同じレトリック。

相手に分かりやすく、普通のことばで考えを伝えること。それが当たり前だと思うのだけど。

2021年5月15日

僕が日本の新聞とテレビを信用しないわけ

日本政府はいまだに東京五輪を開催するつもりらしい。ただ、首相や五輪関連の大臣の答弁からは、そこにどういった道義があるからという説明は聞こえてこない。

一旦決めたことだから、決まったことだから、やる。自分たちではどう「中止」していいか分からないから進めるしかない。そんな感じがする。

世論調査では、日本人の7割以上がこのコロナ禍での五輪へ反対もしくは延期を希望している。これに耳を貸さない政府も政府だが、こうした調査結果をニュースとして流すだけでメディアとしての主張をはっきり述べない日本のマスコミは何なんだろう。

大手の新聞社、テレビ局のことだ。個々の番組では、出演者が開催への反対意見を述べているのを見るし、新聞では反対への投書意見の掲載や外部論者のコラムを掲載している。

だが、だからといって、それで済むものではないだろう。ジャーナリズムを生業とする新聞社、あるいはテレビ局としての意見をはっきり出すべきだ。

その理由を僕なりに考えると、ひとつには新聞、テレビといったマスメディア企業の事なかれ主義。色んな意見を紙面で「紹介」するだけで、自分たちの明確な考えは示さないことによって非難を受けたりしないようにしている。

ふたつめは、いまの時流の中で五輪賛成を表立って謳うことはできないが、実は開催を願っているから。開催されればテレビも新聞も五輪報道で活気づくのは明らか。自分らのビジネスへの影響を考えると、このままやって欲しいと願っている。

反対をはっきり述べているのは、いくつかのラジオ局だけだ。彼らには、テレビや新聞ほどの影響力がなくて政府から強く睨まれることがないことと、直接的な大きな利益関係もないからだろう。

テレビも新聞も、僕が主に外国のメディアを通じて情報を得るようになったのは、こうしたことからなんだ。

2021年5月10日

日本のサービス企業の問題は、生産性だけじゃない

3G回線の携帯電話機を新しいものに交換しませんかという案内パンフが届いた。そこで、そろそろ切り替えようと思い通信会社に電話した。

機種交換だと言うと別の係に回され、送られてきたパンフレットに記載のお勧めの料金プランで決めようと思ったが、一点、そこに記されている「2年縛り」の言葉が引っ掛かった。

その方が経済的なんだろうが、通信会社ごときに縛られたくない。別に物理的に体を縛られるわけではないし、いつでも違約金さえ払えばそれで済むのは分かっているが、これは気分の問題。

2年縛りでない<普通の料金>はいくらかと電話の向こうの男性に尋ねたら、「分からない」という。「自分たちは2年縛りの料金しか知らされていない」がその理由だ。

ヘンに思い、あなたはKDDIの社員ですよね、と尋ねると、auの者です、と返ってくる。繰り返し尋ねても同じ返答。auはサービス名称であって企業名ではない、

ちゃんと会社名を言うように言ったら、「それは言えません、上から言うなと言われているから」と繰り返す。通信会社の非常識はここまで来たかと思った。

KDDIが業者を使っているのだろうが、こんなことやってるからユーザーからの苦情が絶えないんだと納得。

もう少し上手にできないものかね。

2021年5月1日

この時期のオリンピックを「スポーツの祭典」だなんて誰が言えるか

鹿児島で実施された五輪の聖火リレーの現場で、新型コロナウイルス感染者が6名でた。

なぜこんなことを今も続けているんだろう。聖火リレーがなぜ必要なのか分からない。

オリンピックはスポーツ競技のためのもの。聖火リレーがあろうとなかろうと、出場する選手たちの競技上のパフォーマンスには何も関係ないはず。 あるのはオリンピックといえば聖火、で、聖火と言えば聖火リレーという固定観念。

加えて言えば、スポーツの競技会なのに、なぜ3時間もの開会式が必要なのか。

佐々木宏という、森元総理大臣の友人が務めている大手広告代理店の人物がその演出責任者に選ばれ、タレントの渡辺直美をブタにして面白がるという演出プランが内部からバラされた。その発想は、表現することで禄を食んでいる人間としての品性に欠けている。 

https://www.theguardian.com/sport/2021/mar/18/tokyo-olympics-ceremonies-chief-hiroshi-sasaki-sexism

そんな演出プランを考えることがスポーツ競技と何の関係があるのか。テレビ中継のためだけの単なる浅薄なショーだ。

そういえばその人物は、サントリーの缶コーヒーのCMでトミー・リー・ジョーンズを耳の尖った宇宙人に仕立てたり、トヨタのCMではジャン・レノをドラえもんにし、ソフトバンクモバイルでは北大路欣也さんに犬の吹き替えをさせるなどしている。

視聴者が面白がってくれるからと、有名俳優の顔をスポンサーの札束でひっぱたたいて「俺が動かしてる」と悦に入っているんだろう。そのメンタリティーが渡辺直美をブタに変えるという下卑た演出プランに結びついている。

五輪に話を戻せば、いまの時期に日本中を走る聖火リレーなど即刻止めてもらいたい。そして、開会式もクサい演出やショー的要素は一切無用。巨額の放映権料が入ることになっているテレビ中継にしか関心のないIOCと同じ轍を踏むことはない。

そしてそもそも、五輪は来年の秋にでも持ち越すことだ。