2012年11月21日

大学は多すぎる

日本経済研究センターからの送られてきたメールに、「大学(生)が多すぎる?」と題した、大阪大学の大竹教授のコラムがあった。
http://www.jcer.or.jp/column/otake/index422.html

彼はその中でOECDレポートを引き、以下のように高学歴社会は失業率が低いという論を展開している。
世界各国で高学歴化が進展しているのは、高学歴者に対する需要が増えていることを反映している。実際、日本でも高学歴者の失業率と低学歴者の失業率を比較すると、高学歴者の失業率の方が低い。たとえば、OECD(2012)は、 「より高い学歴を達成するほど、就業率は上昇し、失業率は低下する傾向にある。日本において、 後期中等教育が最終学歴である男性の就業率が 85.7%、失業率が 6.4%であるのに対し、大学型高等教育または大学院のプログラムを修了した場合、就業率は 92%に上昇し、失業率は 3.4%に低下 する。女性については、後期中等教育から大学型高等教育へと学歴か上がることにより、就業率 は 61.2%から 68.4%へ上昇し、失業率は 5%から 3.2%へ低下する」と指摘している。
現状では高学歴者の方が失業率が低いというのは分かるが、では仮に大学進学率が100%(今の高校のように)なったとしたらどうなるのだろうか。失業率がゼロになるという考えは現実的ではなく、高学歴であろうとなかろうと失業者は発生する。

そもそも、大学卒を「高学歴」と考える古い考えをそろそろやめた方がいいと僕は思っている。これはまだ大学進学率が20%とかの時代、一部の人たちしか大学で学ぶことができなかった時の発想だ。

ところで、このコラムで大学進学率の国際比較がされている箇所で、大竹は次のような指摘をしている。
図4で示したOECDの国際比較によれば、大学進学率のOECD平均は、62%であり、日本の大学進学率はOECD平均よりも10%ポイントも低い。米国では74%であり、北欧諸国は概して高い。韓国も71%と日本より20%ポイントも高い。日本の進学率が90年代に上昇してきたことは事実であるが、そのレベルが先進国の中では低い方であるということは広く知られるべきであろう。
ところが実際のところは、図4のもとになったOECDの資料Education at a Glance 2012 のTable C3.1. Entry rates into tertiary education and age distribution of new entrants (2010) では、引用されたTertiary-type Aの男女合計値ではそうなっているが、性別ごとに見ると男性ではOECD平均55%に対して日本は56%と同等以上である一方、女性はOECD平均69%に対して49%とかなり低い数値である。より大きな意味を持つのは、この男女間の数値の違いなのである。
http://www.oecd.org/edu/eag2012.htm

なお、ここでデータが示されている31カ国中で女性の進学率が男性に比べて低いのは日本とメキシコだけ。しかも、メキシコは男性33%対女性32%とほぼ同値だから、日本だけが明らかに女性の進学率が低い。

上記に則って考えれば、またOECD平均値が基準だとする価値観を採用するならば、日本が対応を考えなければならない課題は、「女性」の進学率をどのようにしてどこまで上げるかということになる。進学を希望する女性が大学へ進むことができるのは、大変結構なことだと考えている。しかし、男女間の雇用環境の格差が歴然として存在する日本でそれが実現したからといって、そのことで大竹がコラムで書いているような失業率の減少が期待できるのかどうか・・・大いに疑問が残る。

また、引用されているデータはEntry rates(入学率)であり、卒業率ではないことも注意する必要がある。日本の場合は大学進学者数と大学卒業者数がほとんど同じと考えていいだろうが、米国では学費など教育にかかる資金が続かず中退する学生が多い。米国の大学は授業料が高いうえに、大学生の多くは自分で教育ローンを組んで学費を払う。また日本の大学は入学さえすれば卒業できると言っても過言ではないが、他国ではしっかり勉強させられ、学業不振でドロップアウトさせられる学生は日本に比べてはるかに多い。つまり、Entry rate の比較がどれだけ正しいか、その確からしさも気になるところである。

米国では教育の機会が日本より重層的であり、かつそれに対する社会の許容度も高いように思う。日本では、大学とは高校を卒業したらすぐに行くところとされている。米国でも多くはそうだろうが、日本以上にいろんなルートがある。高校卒業後しばらく働いてお金を貯めてからコミュニティカレッジに行き、その後さらに大学に転入するとか。またオンライン大学などのネット教育も盛んだ。アリゾナに本拠地を置くUniversity of Phoenixは現在、50万人の学生が学ぶアメリカ最大の大学となっている。(英国のOpen Universityは、25万人の学生を抱える英国最大の大学である。)

日本の大学教育に関しての問題点だと個人的に考えている点を整理したい。

・大学は18歳で(高校を卒業したらすぐに)入るものという通念。高校生側の問題ではなく、社会がそうした圧力を持っている。企業の新卒一括採用など。

・教育の面でテクノロジーの利用度が低い。大教室で行われている一方通行の教養科目などは、オンデマンドで代替できる可能性が大きい。昨日のニューヨークタイムズ紙に掲載されていた「College of Future Could Be Come One, Come All」と題した記事が参考になるだろう。
http://www.nytimes.com/2012/11/20/education/colleges-turn-to-crowd-sourcing-courses.html?pagewanted=all

・大学数がむやみに多い。文科省役人の天下り先確保のためとしか思えない。

・学生が親がかりである。日本の大学生は勉強しなくてもすむから教養が育たないだけでなく、親元を離れないから自立心も育たない。

今年の夏、オレゴン州のポートランドにいる友人を訪ねる飛行機のなかであった女性を思い出した。僕の隣の席にいた彼女は、30歳くらいだったろうか。オレゴンの大学を中退してニューヨークに渡り、いくつかの仕事を経験した後、チェルシーのあるチョコレートショップの店長を任されて何年か働いたという。貯めた資金で、こんどはシアトルに行って栄養学の勉強を本格的にやるそうだ。シアトルの学校に入る前に、ポートランドにいる親に顔を見せに寄るのだと話していた。

大学は卒業するに越したことはないのかもしれないが、卒業証書にどれほどの価値があるか考えてみるのもひとつ。大学を自分の目で見て、やっぱり違う、と思えばいったん止めて働くなりして、また学びたい事ができたら入り直しできるような社会がいい。