映画「クライ・マッチョ」は、クリント・イーストウッドが50年前に「恐怖のメロディー」で監督デビューしてから40作目になる作品である。今や誰もが認める大監督である
監督と主演をつとめるイーストウッドが演じる元ロデオ・スターのマイクは、かつての落馬をきっかけに引退し、今は静かな、そしてある意味で落ちぶれた男として暮らしている。
昔の雇用主からメキシコにいる訳ありの息子を連れて帰ってくれるように依頼されることから物語が始まり、半ば誘拐のような感じメキシコ人の少年を連れて、おんぼろ車で旅しながら彼の父親が待つメキシコとアメリカの国境に向かうと言うロードムービーである。
先日見た『マークスマン』で、リーアム・ニーソンがメキシコ人の少年を連れてメキシコ国境から中西部の街シカゴを目指すスタイルと似ている。
先日見た『マークスマン』で、リーアム・ニーソンがメキシコ人の少年を連れてメキシコ国境から中西部の街シカゴを目指すスタイルと似ている。
『マークスマン』では、リーアム・ニーソンは旅の途中でメキシコ人の少年に銃 (ベレッタ)の使い方を教えるシーンがあったが、本作では元ロデオのチャンピオンだったイーストウッドが国境へ向かう途中で立ち寄った村で少年に馬の乗り方を教えてやる。
それは、マイクにとっても自分自身を取り戻す再生を呼び起こす行為である。『マークスマン』では旅をするのは年老いたリーアム・ニーソン、メキシコ人の少年、そして1匹の犬だった。本作では、年老いたイーストウッドと同じくメキシコ人の少年、そしてその少年が連れている闘鶏のマッチョであるところもなんだかよく似ている。
かつての輝きを失った年老いた男と少年、そして動物という取り合わせは黄金のトリオだ。
途中、彼らの旅を阻む連中の存在、そして戦い。それにより少年は成長し、新たな人生への予感を漂わせる。一方、年老いた男はどうなるか。『マークスマン』のニーソンはやるべきことを成し遂げた後、すでに何にも名残はないかのように満足し安らかな表情で息途絶える。
イーストウッドは、その長身の体を少しかがめ、ゆったりとした足取りながらもちょっぴりロマンチックな新たな人生を見つけそこへと静かに入っていく。これは、91歳になったイーストウッドが眺める人生へのひとつの眼差しだ。イーストウッド節といっていい、性根の太さとペーソスを漂わせる。
劇場の観客は、週末だというのに僕ともう一人だけ。下の階のスターバックスは若い連中で溢れているというのに。