赤瀬川原平の『老人力』(1998年)を読んだときは驚いた。人が歳をとって「物忘れがひどくなってきた」「ボケてきた」ことを、彼は「老人力がついてきた」と表現した。
そのコロンブス的発想は見事だと思った。クリエイティブな視点とはこうゆうことをいうのだな、と学んだ。
視点を変えればものの見え方が変わる良い例として見ていたこの「老人力」は、実は脳生理学に沿っていたことが最近の研究論文で明らかに。
先月、Perspectives on Psychological Science誌に掲載されたファビアン=ホセ・フェルナンデス他の"Aging as a Continuation of Development: A Hypothesis and Framework"である。
これまで加齢によって短期記憶の力が衰えて物忘れが激しくなると一般的に言われてきた。ところがフェルナンデスらは論文で、加齢にともなって出来事の細部を覚える精度が低下することを人の単なる機能衰退と捉えるのではなく、これまでの蓄積してきた知識の統合、物事の大局的理解、感情の調整の重視や再編成と捉え直した。もちろん、正常な加齢とアルツハイマー病による変化は区別しなくてはいけない。
つまり、日々の些細な出来事を忘れたり、思い出せないのは認知機能の低下ではなく、これまでの知識や経験を統合することで大局的に物事を捉えるための「進化」だと主張する。
彼らの唱えるそうした「適応的加齢仮説」は、まさに「老人力」のことではないか。
赤瀬川が28年前にその著書で唱えた考えが、今ごろになって学術研究でサポートされたってわけさ。
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| 筑摩書房、1998年 |
