社会調査を専門とする谷岡一郎さんが、ニュース上に見る社会調査の問題点を指摘していた。
その中の一つとして彼が取り上げていたのが、プルデンシャル ジブラルタ ファイナンシャル生命保険が行った調査の結果である。
今年60歳になる男女2,000人へのアンケートをもとにしたもので、その結果の内容は「現段階の貯蓄額は4人に1人が100万円未満で、2,000万円にはとても届かない」というものだった。
2,000万円という参照値は、2019年春に金融庁金融審議会が、95歳まで生きるには夫婦で2,000万円の蓄えが必要と試算した例の数字のことである。
詳しい質問票がないので詳細については推測するしかないが、調査結果の発表内容からだけでもいくつかの点が指摘されている。
金融庁の報告書にある2,000万円の蓄えには、現金預金は勿論だがそれ以外の不動産や有価証券なども含まれるはずだ。しかし、この生命保険会社の調査で問われているのは、貯蓄額である。貯蓄額を問われた時、一般的に我々は銀行預金をイメージして回答するはずだ。
さらに、この調査での調査対象は今年60歳になる男女2,000人らしいが、そのことはつまり、まだ多くの人は退職金を受け取っていないと考えられる。調査対象者の年齢を何歳か上げて聞いたならば、貯蓄額の平均額は退職金で上がったはずである。
さらには、さきほど述べたように、貯蓄額ではなく全ての蓄えがいくらかという問いであれば金額はさらに大きくなったはずだ。
調査を行ったこの生命保険会社には、意図的に調査結果の数字を小さく抑えることでそれを目にした人の心配をかきたて、「いざという時のために生命保険に入っている必要がありますよ」と思わせようとした狙いがあったと勘ぐられても仕方がない。
ところで、朝日新聞社が出版するAERAという雑誌の編集部が、【独自アンケート速報】として以下のようなアンケート調査結果をウェブ上で掲載していた。
皇族のあるお嬢さんと彼女のボーイフレンドとの結婚について、それを「祝福する気持ちはあるかどうか」を一般の人に尋ねた調査であり、結果は祝福すると答えた人の比率は5%だったとレポートした。設問は「あなたは今、お二人の結婚を祝福する気持ちはありますか?」だった。
この調査の問題点は、誰でもが回答することができるネット上の調査であり、回答者の4分の3が女性に偏っていたこと。もともと自誌の登録ユーザー宛に調査したんだろうか。
その調査システムでは、同じ回答者が調査期間中に繰り返し回答することができるようになっていたらしい。
こんな調査を調査とは呼ばない。そもそもこのアンケート調査の意味はどこにあるのか。誰が誰と結婚しようが、それは当人らの問題であり、赤の他人がどうこう言うことではないだろう。
どこのバカがこの調査を立案したか知らないが、自分が、あるいは自分の家族が結婚を控えていたとして、見ず知らずの新聞社の誰かがその結婚について「祝福する気持ちがあるかどうか」のアンケート調査を行って、その結果を公表したらどんな気持ちになるか。少しでも考えてみたのか。
嫌がらせ以外の何ものでもない調査だ。これで自社の雑誌が売れるからとか、サイトアクセスが増えるからとか、面白おかしく記事に仕立てるためだけにこんなクズ調査はやってはいけない。それに、こうしたアンケートに答える方も答える方である。