2021年10月15日

またインバウンドか

コロナ感染者数の一応の減少によって緊急事態宣言が解かれ、人の動きが増してきたように思う。

酒を提供できなかった飲食店でもやっと食事と一緒に飲めるようになった。アルコール提供の自粛、閉店時間午後8時の要請、そうしたことが実際に感染拡大防止にどれだけ役に立ったのか、僕は強く疑っている。

結果オーライで、感染者数が減ったのだから良かった正しかったんじゃないかというのではダメ。

そろそろ、また旅行業界が政府に泣きつき始めた。Go To トラベルを早く再開しろと。

多くの人々の気持の中には、出かけたい、旅行したい、という思いがふつふつと甦ってきているはず。それにただ弾みを付けるためだけに、一部の企業や関係者にだけ恩恵が向かう政策に多額の税金をこれ以上流し込むべきではない。

旅行や移動を制限されていたから、人々は旅行しなかった。その制約がなくなれば、放っておいても人は旅行という行動をとるのは間違いない。それに、さらに税金で自分らを潤せというのは欲が深すぎるんじゃないの。

消費者の行動の抑制で厳しいビジネス環境で耐えることを強いられたのは、なにもホテルや旅館、交通機関だけじゃない。

音楽、演劇、ダンスなどのライブ・エンターテイメントは、公演の場をずっと失っていた。病院は、一般患者の通院や健康診断の受診数が減少して収益を確保するのが大変だったはず。

もちろん飲食店もだ。僕が贔屓にしている近くの日本料理店は、先月末で緊急事態宣言が解除されるまで、この1年間で営業できた(店を開店した)のは3週間にも満たなかったと言っていた。

ある大手ホテル&リゾートの経営者が、インバウンドが期待できないのだから早々にまたGo To をやってくれなければ困る、と恥ずかしげもなく主張してたが、自分たちのことだけでなく少し広い目で社会を見たらどうだ。

先に述べた通り、人々の気持ちの中には旅行をしたいという感情と欲求がわいているのは間違いないのだから、旅行ビジネスに携わる人たちは、ただ政府に補助金政策で後押ししてくれと訴えるのではなく、業界挙げて旅や旅行の愉しさや本来の喜びを国民に伝える工夫をしたらどうだ。

自分で頭を使うことをせず、いきなり「補助金ちょーだい」というところが、日本の旅館業界のレベルの低さを象徴している。

そのうち、業界からも国交省を中心とした政府関係者からもまた「インバウンド」の合唱が始まることだろう。

インバウンドについて、先日、作家の北方謙三さんがこう書いていた。

インバウンドとは、どういう意味なのかな。もし外国人旅行者のことを言うのなら、そのまま日本語で言った方が、はるかに分かりやすくないか。(中略)日本語で言えないので、インバウンドなどと言ったりするのだろう。インバウンドが外国人旅行者だとしたら、それほど日本人にとって不都合な人たちになるのか。いやだなあ。私は、ほんとうにいやだよ。

その通り、本当にいやだね。「インバウンド」はひとつの例で、そのほかにも流行り言葉を自分で吟味することなくそのままカタカナで表現して、括弧のなかで日本語で説明するなど、各メディアの見識のなさが目立つこの頃だ。