2021年7月5日

こうした死に方があってもいい

映画「ブラックバード」の登場人物は8人。スーザン・サランドンとサム・ニールの夫婦とその2人の娘の家族、そしてサランドンの学生時代からの友人。これら8人以外は誰も画面に登場しない。

まるで舞台を見ているような感じで、3日間の物語が進む。海辺近くの瀟洒な一軒家とその周辺の風景だけが描かれる。デンマーク映画のリメイクらしい。本作の脚本は、オリジナル映画の脚本家であるデンマーク人が務めた。

主人公はスーザン・サランドン演じるベビーブーマー世代の女性。60年代から70年代に青春を送ってきたんだろう。いまもやけに威勢がいい。子供らにも小さなときから「創造的に生きろ、自由に生きろ、強く生きろ」と檄を飛ばしてきたみたいだ。それが娘たちには、心の傷にもなっている。

話の途中で彼女は「あの頃、自分も気持だけはウッドストックに行った」と話したり、食事の最後にみんなにマリファナを回したり、きっとあの頃ラブ&ピースの洗礼を受けて、いまもその残滓を胸に生きているだろう。彼女の学生時代からの親友がレッド・ツェッペリンのTシャツを着ていたのは、演出的にはちょっとやり過ぎに思えたけど。

当時の世の中に反抗し、自由と平和と愛を謳いながら、結果として社会的に成功したかつてのフラワーチルドレンがどう人生に幕を下ろすか。

スーザン・サランドン演じるリリーは、今はまだ元気だが不治の病を患っており、近いうちに体の自由がきかなくなり、寝たきりになると告げられている。まだしっかり意識があって、なんとか自分の足で歩けるうちに自分で自分の人生に幕を下ろすと決め、そのために家族を自宅に呼んだ。

最後まで自由で、自分のことには自分で落とし前を付ける主人公には、見るからに意思の強そうなスーザン・サランドンは適役だった。これがメリル・ストリープならいささかメロドラマ的になっただろうし、ダイアン・キートンならもっとセンチメンタルになっただろう。

そうした意味で、この映画はキャスティングがとても上手くいった作品。 

ちなみにアメリカではワシントン州やオレゴン州で安楽死が認められているそうだ。