2021年8月31日

3時間のドライブだった

入り口でチケット買い、そこに記された3番シネマに向かう。扉のところでチケット確認をしているスタッフに、CMと予告編は何分かを訊ねると「この映画は、1分です」と彼女。

時計を見ると、予定の開演時刻ちょうど。これから予告編が始まり、1分後には本編の上映がスタートする。どうせ本編上映まで十数分あるだろうから、トイレで手をゆっくり洗ってから席に着きたいと思っていたのだが、そうはいかないようでそのまま席につくことにした。

映画「ドライブ・マイ・カー」は、村上春樹の短編集『女のいない男たち』を原作にした映画。
 

映画の中で、チェーホフの「ワーニャ伯父さん」が劇中劇として登場する。ただの劇中劇として演じられるだけではなく、そのためのキャスティングから始まり、本読み、稽古、そして最後は劇場での舞台公演までが映画の中に登場する。舞台が作られていくプロセスが、この映画と併走する。

西島秀俊が演じる主人公の家福は、演出家で役者。彼は広島のある劇場から招かれ、演劇祭のためにこの芝居を作ることを依頼されている。

もう一人の主人公は、クルマで彼の送迎を担当することになった小柄な若い女性のプロドライバー、みさき。

いや、この映画にはもうひとつの主人公がいた。みさきが運転し、2人が移動に使う赤いサーブ900である。村上の原作では黄色いサーブ900になっているが、映画では赤いボディカラーで正解だったね。

この車は家福が15年乗り続けている車なのだが、芝居の製作中にもし事故があったらいけないという演劇祭の主催者の意向で、みさきが送り迎えを運転するのだ。

窓が大きく、「これぞクルマ」といった、いかにもオーソドックスなスタイルのこの車が映画にとてもよく似合ってた。

映画の終盤、家福はみさきの運転するサーブ900で、彼女が生まれ育った北海道の小さな町まで夜を徹した長距離のドライブをすることになる。

それは、2人がそれぞれに抱えてきた過去を振り返るとともに、そこにある種の諦めをも感じさせる、しかし未来へと続く価値を見いだす旅でもあった。赤いサーブ900は、その2人の再生を見届ける証人のようだ。

映画の中で「ワーニャ伯父さん」の舞台を作っていく家福。亡き妻との関係から自分を見つめ直さざるをえなくなる家福と、これまた捨てられない過去を心に潜めたみさきの2人が、まるで「ワーニャ伯父さん」の主人公たち、ワーニャとその姪のソーニャのように思えてくる。

上映が終わり、腕時計を見たら3時間が経っていた。後で調べたら、この作品の上映時間は179分とあった。つまり、上映前の予告編1分と合わせてちょうど3時間の、発見のドライブだったわけだ。