2019年4月3日

ライフ・イズ・ゴーイング・オン、そして女は強し

ROMAは、映画監督アルフォンソ・キュアロンが1970年代のメキシコを舞台して描いた白黒映画。政治的混乱に揺れる時代背景の中での比較的豊かな中産階級の家庭とそこで働く家政婦が登場人物である。

白黒映画というカラーに比べて情報量の少ない映像だが、だからこそ見るものは自分がその世界の中の一員であるかのような気にさせられる。それはパンをして流れるように映される風景とそこに自分が溶け込んでいるかのような気させる絶妙のカメラワークと不思議な音響効果のせいだ。

映画館の音響設備にもよるのだろうが、僕が今回観た横浜のイオンシネマの劇場では音が270度位の角度から耳に流れ込んできたような印象があった。自分が家の中のソファーに座り、右手に立つ女性が電話で話している一方で、左手の方からは子供たちが遊ぶ声が聞こえてくるような、そんな臨場感あふれる音響の作りだった。

映画の主人公は、この家で働く若い家政婦のクレオ。そしてもう1人挙げるとするなら、この家の主婦であるソフィアだろう。ソフィアの夫やクレオの恋人ら男たちももちろん出てくるが、影が薄い。彼らは格好だけつけているだけで、おおむね意気地がなかったり、無責任な人間として描かれている。

それに対してクレオもソフィアも、ソフィアの母親もみんな普通のメキシコ人ではあるが、勇気と愛に溢れていて、子供たちを心から愛しているまっとうな人間たちだ。

日常の家庭を舞台に取り立てて大事件が起こるというわけではないが、揺れ動く時代背景の中でそれらに対応しながらしぶとく、しかし明るく、愛と勇気を持って生きている女性たちの姿。またそうせざるを得ない人たちを淡々と描くことで「人生は続いていくんだ」と語りかける。