毎月、「かながわ県のたより」と題する県からの月報が配布される。普段そうしたものを読むことなどないのだが、GW中に古新聞をかたづけるついでにめくってみたらある記事が目に付いた。
その号の特集は「STOP! カスハラ!! かながわ宣言」。カスハラ(カスタマーハラスメント)はいけない、止めようという趣旨だが、目を通していて、あれっ!と思ったのは、そこで紹介されていたカスハラの事例だ。
さて、これのどこが<脅迫>なのだろう? わざわざ赤字で印刷されているところが<脅迫>にあたる、つまりカスハラだと指摘しているのだろうか。
何を「インターネットで流す」と言っているのかがはっきりしなければ、判断はつかない。その日の電車が遅延したこと、そのため接続先の最終便に間に合わなくてタクシーを使ったこと、その後、タクシー代を電鉄会社に請求したが「負担できない」と相手の会社から言われたこと。
これらは事実であり、そのことを誰に話そうが、ネットで書こうが問題はない。プライバシーの侵害や中傷誹謗ではない。もちろん<脅迫>などと言われる筋合いはない。
「ネットに流す」と言われるだけでビビり、そのことを「脅迫」と受け取り、「カスハラ」だと騒ぐのは馬鹿げてる。
そうしたビビり企業は、何かやましいことがあるからと見られてしまうものだ。
もしネット上の内容が事実に反していればそれを指摘し、毅然と訂正を求めればいい。内容が中傷や誹謗であれば法的措置を執る。それらは面倒だけど、いまの社会的環境の下では避けられないコストだ。
「社長もよく知ってるぞ」というこの客の発言を<脅迫>だと断じるのもどうなのか。この場合、電鉄会社が自分たちの判断が適切だと思うのであれば、そのことを会社の社長であろうが誰であろうが伝えられたって構わないだろうに。
全般的に言って、顧客からのこうした要求をスグに<脅迫>とか、<カスハラ>と決めつけたがる精神構造の方が大いに問題だ。このようなやり方で客を安易に<脅迫者>と呼ぶのは、人権上の問題すらある。
これでは、顧客と企業の良好な関係性構築など望むべくもない。
タクシー代の支払いは拒否されてしかるべきだが、電車の遅延による乗客の損害(タクシー代など)は免責されていることをきちんと説明はしたのだろうか(鉄道事業法だか鉄道営業法に定められているはず)。「タクシー代は負担できない」とただ繰り返すだけでは相手は納得せず、顧客対応としては明らかにお粗末だ。
同紙(かながわ県のたより)で県知事の黒岩裕治氏(あのバナナ黒岩だ)が、県庁内の4割がカスハラの被害にあっていると書いていた。それ、誰がどうやってそれを測定したのか? 職員が「被害を受けた」というケースを個々に調べて客観的に判断したのか。しちゃいないだろう、アンケートへの回答数をもとに言っているだけに違いない。
意図的かどうか分からないが、同紙はカスハラを特集テーマにしていながら、カスハラの定義が紙面のどこにも示されていない。
ネットで調べたたら、神奈川県は県庁サイト上でカスハラを次のように定義していた。それは、「県民等からの言動のうち、業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものであって、職員の就業環境が害されるもの」。
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/bd4/20250319.html
きわめて抽象度が高い。
参考まで東京都と厚労省のカスハラ定義を見てみる。
東京都の定義
「カスタマーハラスメントとは、①顧客等から就業者に対し、② その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、③就業環境を害するものをいう」
これら①から③までのすべての要素をみたすものがカスタマーハラスメント(東京都カスタマー・ハラスメント防止条例)(令和6年発令)
②について:
著しい迷惑行為とは、「暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為をいう」と規定している。
③について:
「就業環境を害する」とは、顧客等による著しい迷惑行為により、人格又は尊厳を侵害されるなど、就業者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものと なったため、就業者が業務を遂行する上で看過できない程度の支障が生じることをいう。
具体例として挙げられているカスハラ行為例:
・暴言・暴力・威嚇行為
・土下座の強要や人格否定的な発言
・長時間の拘束や同内容の繰り返し要求
・社会通念を逸脱した過剰なサービス要求
・SNS等での誹謗中傷による従業員の精神的圧迫
厚労省の定義
厚生労働省は、「カスタマーハラスメントを明確に定義することはできません」としたうえで「顧客からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」がカスタマーハラスメントと考えられるとしている。
いずれの定義に照らし合わせても、神奈川県庁が指摘した先の乗客の例は、脅迫やカスハラには該当しないことが分かる。
神奈川県の知事室は、県内442万世帯にこうした問題のある記事を掲載した「県のたより」を配布し、県民を「牽制」しているつもりなのだろうが、これは大いなる税金のムダ使いとしか思えない。
そういえば、こんなことがあった。2023年10月、東京23区のある区で区立小学校の改築計画を巡って区役所が地域住民に対して説明会を開いた。その際、住民からの質問や要望が途切れることなく出て、会議がずいぶん長引いた。後日、そのことを区の幹部が「カスハラ」とほのめかす発言をした。
役所は、とにかく「自分たちが迷惑」と感じたことはカスハラにしてしまいたいようだ。