ケイト・ウィンスレットが『タイタニック』で世界的に知られたのは、彼女が22歳の時。それから27年。
映画の冒頭、雑誌「ヴォーグ」の元モデル、カバーガールとして一世を風靡し、その後「撮られる側」から「撮る側」に移った写真家リー・ミラーに扮するウィンスレットが、胸をはだけた姿で知り合いたちと寛ぐ姿が映る。
『タイタニック』で見せた裸体に比べれば、スタイルはかなり変わった。仕方のないことだ。それより、49歳とは思えないいい形の胸を惜しげなく晒すところに、彼女の覚悟のようなものを感じた。ウィンスレットは8年かけて、リー・ミラーについてリサーチしたという。
ミラーは従軍カメラマンとして第二次世界大戦の欧州戦線に赴き、数々のセンセーショナルな写真をものにした。大胆不敵な発想と行動。直情径行な性格でありながら、周囲への、特に虐げられる者への共感の眼差しを持つ複雑さ。とても魅力的だ。
ヒトラーが自殺し、終戦が間近になった頃、彼女はナチス強制収容所で目を覆わんばかりのホロコーストの悲惨な姿をカメラに収める。しかし、その多くは世の中には出なかった。インターネットなどない時代だ。編集者の判断で新聞や雑誌に写真が掲載されなければ、それらを人々が目にすることはない。
世の中が求めたのは、戦争の終わりと連合軍側が勝利したことを人々に伝える「希望に満ちた」写真や報道だったわけだ。それに強く苛立つミラー。
彼女はかつて、モデルやセレブリティとして輝くような光の中で生きていた。だからこそか、写真家となった彼女を引きつけたのは、人や世界の影の部分だった。
劇中、彼女が使っていたローライフレックスのカメラが気になった。カメラを顔の前に構えるのではなく、腰のレベルで構えて上からファインダーを覗いてピントやアングルを決める。そのあとは、被写体と普通に顔を合わせたままシャッターを押せるのがいい。
ナレーション:ケイト・ウィンスレット