2002年、政府の閣議決定をもとに国土交通省がグローバル観光戦略を立ち上げた。そして「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の名の下で、海外から観光客を呼び込む活動が国を挙げて開始されたのが2003年だった。
かつて世界を席巻した半導体産業など日本の製造業はすでに見る影もなく、政府は外貨を稼ぐ最後の砦として観光産業に目を付けたわけだ。
しかしその後、訪日客数は10年間さほど伸びず、2012年頃まで日本を訪れる外国人観光客は多くてせいぜい年間800万人(フランスの10分の1)ほどだった。その後、とうとう外務省が中国人へのビザ発給要件を徐々に緩めるのにしたがって、その数は急上昇。つまり、増えた訪日客のおおかたは中国人観光客だった。
銀座の中央通りに中国人観光客を乗せた観光バスが何台も停車し、大勢の客が銀座の街に一挙に買い物に繰り出していた風景がいまでは懐かしいほどだ。
そして2019年に訪日客は3200万人弱を記録したが、2020年初頭からの新型コロナウイルス感染拡大で2020年は410万人、2021年は25万人にまで激減した。
JNTOのデータを元に作成 |
政府は第7次とも呼ばれる感染拡大に半分目をつむり、「社会経済活動」にいかに国民を仕向けようかと考えている。
夢よもう一度ではないが、コロナが定常化したあかつきには、また「インバウンド」と呼ばれた外国からの観光客誘致策を検討していることだろう。
だが、それはかなり難しい。今のような感じで円安が進んでも難しいと僕は見ている。その理由のひとつは、場所によっては40度を越え、熱帯ともいえる日本の夏の暑さだ。
中国などアジア諸国からの観光客は知らないが、欧米人が夏のバカンスシーズンを利用してこの殺人的暑さの国にはるばる観光に来るとは考えられない。
実際、ヨーロッパでは人びとの旅行行動に顕著な変化が現れている。日本の猛暑のことを言ったが、暑いのは日本だけではない。英国で歴史上初めて40度を超える気温を記録したなど、各地がヒートウェイブに襲われている。
そのため人びとは、暑いローマではなく、比較的涼しいストックホルムやコペンハーゲンを選ぶ。暑さで避けられるようになったのは、なにもイタリアだけではない。スペイン、ポルトガル、ギリシア、フランスといった著名な観光地が軒並み敬遠される傾向がでている。
だが、「暑さ」ゆえに観光の目的地から外されるようになったローマの最高気温は華氏100度、つまり摂氏38度弱。確かに涼しくはないが、日本よりマシ。夏のバケーション・シーズンに、高温多湿の日本に観光にくる欧米人はいない。
春や秋といった過ごしやすい季節はあるが、それらの時期に訪れるのは中国や韓国といった近隣諸国からの短期の観光客だけ。
一般の日本人は、円安で海外旅行に出かけづらくなる一方、海外から観光旅行客を呼び込むのもこれまでのようには行かなくなるのがこれからの日本だ。