2011年6月12日

失明暗

新聞の文化欄に声楽家の塩谷靖子さんが文章を寄せていた。そこで彼女が書いていた「失明暗」という言葉に目を引かれた。

8歳で光を失った彼女にとって、光のない世界は闇ではないという。失明直後は闇であったとしても、いずれ明るくも暗くもなくなるからだそうだ。「明があるからこそ暗があるのであって、つねに明がない者にとっては暗もないのだ。だから、失明という言葉は、正しくは失明暗と言うべきかもしれない」と書かれている。なんという真実!

だからこそ、彼女は光溢れる世界をもう一度見たいと憧れると同時に、闇に思いをはせる。「失明暗の状態にある者にとっては、もはや体験することのできない、真夜中の森を覆い尽くす闇や、カーテンを閉めて明かりを消した寝室に漂う闇が恋しくなるのだ」との言葉に、深い知性と繊細な神経の存在を感じる。