2011年6月10日

文章の誕生感

荒川洋治さんの本のなかに、彼が初めてメールを使ったときのことが書いてあった。
最初にもらったメールが、画面に浮かんだときの印象をぼくは生涯忘れないだろう。メールを、おそるおそる開けた。するとどこから湧いたのか。すぅーっと先方の文字があらわれる。静かである。声がない。音もない。時もない。文章というものが生まれた瞬間に立ち会うような気分だった。 古代の空気を感じた。ことばはこのようにして、この世にあらわれたのだと思った。この世から消えるのだと思った。
それまでFaxで原稿をやりとりしていた彼にすれば、静かに言葉が生まれたと感じたのも分かる気がする。そして消えていくのだろう。

これが書かれたのはちょうど10年前、2001年のこと。