2012年7月26日

引き裂かれた国 ー スティグリッツの出版記念講演

ノーベル経済学者であるスティグリッツの講演会があった。彼の新刊、The Price of Inequality(Norton)の出版を記念してのものである。


彼は、現在の米国は完全に引き裂かれた社会になってしまい、既に「Land of Opportunity」ではなくなってしまったと数々のデータを示しながら説明する。

典型的な現象としては、かつてないほどの所得と富の偏りがある。具体的には上位1%の層が米国全体の所得の2割を得ている。富の分布でいえば、上位1%が米国全体の富の35%を保有し、しかも基本財である家の価値を除いて計算すると、なんと上位1%がアメリカという国全体の富の40%を握っていることがデータから示されている。

しかも、それはただの「現状」ではない。機会均等は社会から奪われ、階層はほぼ固定化されてしまったため、下層にいる人たちが上方へ移行することは極めて困難な社会ができあがっていると彼は指摘する。経済システムと政治が機能していないことがその理由である。

彼は、上位1%の経済エリートが多額の所得を得ることに単純に反対しているのではない。問題は、彼らが残りの99%からの収奪の上に不当な多額の富を得ていることをいくつもの事例を示しながら訴える。キーワードのひとつは、レント・シーキング(Rent-seeking)である。新しい価値を創造することで市場全体を大きくするのではなく、ロビイングなどで自分に都合のよいルールをつくり、現市場のなかで自分のパイ(取り分)を最大化することに血眼になっていることを厳しく批判している。


堤未果の『ルポ 貧困大国アメリカ』『ルポ 貧困大国アメリカⅡ』(ともに岩波新書)は、その主張をスティグリッツの前掲書と軌を一にしている。こちらは学術的な本ではなく、表題の通り著者の取材・インタビューを中心にまとめられているルポルタージュである。最初、堤の本を読んだ時は、正直いうと内容に関して本当かどうか疑問も多かったが(特殊なケースをある意図のもとで取り上げているではないかと)、決してそうではないようだ。それが分かり、いっそう慄然とさせられた。

アメリカはどこへ行こうとしているのか。