元サッカー日本代表監督の岡田武史が「私の履歴書」(日経)に昔の逸話を紹介していた。
35年前、彼はイタリアで日本の若手サッカーコーチを集めた研修に参加したことがあった。それは、現地で開催されたワールドカップに合わせて実施されたらしい。
講義の1つを担当したのが、当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだったACミランの監督アリゴ・サッキ。彼は講義の中で「よい指導者になりたいなら、絵を見ろ。音楽を聞け。本を読め」と話したという。岡田は最初、通訳がサッキの話を訳し間違えたのかと思ったらしいが、そうではなかったと。
サッカーだけいくら知っていても知っていてもダメで、広く奥行きのある知性と感性を持っていなければ、プレーに求められる想像力は養えないということだろう。
それで思い出したのが、漫画家・手塚治虫が赤塚不二夫にアドバイスした言葉。まだ代表作がなかった赤塚が、手塚にどうやったら漫画がうまく書けるようになるのですか、と尋ねたら、手塚は「漫画から漫画を学ばないでください」と答えた。
一流の映画、音楽、文学、芝居に触れることの大切さを説いたのである。
生命の神秘から時代物、宇宙、仏陀などあらゆる対象を描いた手塚の旺盛な創作力を支えたのは、さまざまな分野から得た豊かな教養だったに違いない。
最近、経営学者も遠方の知を探すことの大切さをビジネスマンに説いているが、それも同じ。
ただし、名作と言われる映画をたくさん観、優れた音楽に耳を傾け、文学に身を任せ、芝居の世界に浸るというのは、なにも会社の仕事をうまくやるためにではない。
目的なく、それらを自由に楽しめることが大切なんだ。