2023年5月25日

生徒思いで、だけど世間知らずの先生たちに出会った

新横浜駅から上りの新幹線に乗る。乗るのは東京駅での乗り換えを考えて、いつも15号車と16号車の間のデッキだ。

昨日、新幹線に乗り込もうとしたら、そこに男女が3人。降りるつもりのお客さんかと思ったら、そうではない。だけど、何かへんな様子。3人で僕の方をじっと見ている。

デッキに乗り込むと、その中で一番若そうな30台半ばの男がぼくに向かって言った。「席はどこですか?」。車掌でもない人間に答える必要はないので無視したら、もう一度聞いてきた。やけに真剣そうに聞いてくるので、「席はとってない」と返すと、「この2両(15号車と16号車のことだろう)は我々の貸し切りなので、ほかの車両に行ってください」と言ってきた。

デッキから車両内を覗き込むと、中学生らしい男女で埋まっている。修学旅行の団体なんだ。ぼくは新幹線の乗降扉が開くまで、ずっとホームで読みかけの本に集中していたので車内の様子にまったく目が向いてなかった。

それにしても、さっきのものの言いから推測すると、僕のことがよほど目障りな存在に見えたか、あるいは不審者に映ったんだろう。失礼な!と思い、「そんなに怪しい者に見えるか?」と少し強い調子で若い男に言うと、やや間があって「いえ」と答えた。「おれは東京までの18分、いつもこれで通ってんだ」と言うと、3人はただ黙ってしまった。

生徒のことを心配しているのかもしれないが、それにしても随分失礼な連中である。「あなたたちはどこの旅行代理店の添乗員だ?」ときくと、またもや、やや間があって「教師です」と。引率でやって来た先生たちだった。

車内に座っている生徒らを見ると、遊びたい盛りの子どもたちのはずが、みんなやけに真面目というか、驚くほど静かに座っている。旅先でもおとなしくしているよう強く指導されているのだろう。先生らは先生らで、大きな責任感を感じてプレッシャーに半分あっぷあっぷしている様子。

東京駅への到着間近、教師らに学校名を尋ねたが教えてくれなかった。話してるアクセントから「あなた方、関西からですよね?」と聞くと「神戸から」とだけ答えた。

やがて東京駅に到着。ドアが開き始めたとき、「じゃあ、東京を楽しんで」と先生らに声をかけたが、彼らの頭の中はもうそれどころではない。生徒たちに向かって、一斉に立ち上がれとか、荷物は胸の前に抱えろとか、忘れ物がないように周りを見回せとか、憶えておいた舞台台詞を話しているような感じでトーンが上がっている。

おつかれさん、と胸の中で小さく呟いて先に下車した。先生たち、最初は仕方ないけど、ずっとその調子だと生徒たちが疲れるよ。せっかくの修学旅行なんだから、あまり抑圧しないでもっと解放してやって欲しいと余計な事をつい考えてしまった。

生徒のみんな、修学旅行でいい思い出ができるといいね。