2023年5月26日

「非正規社員」という言葉をなくすところから始めよう

先日、同一労働同一賃金について書いた。同一労働同一賃金が是正されていないことは以前から問題であり、またそのための本格的な動きも見られない。

それと深く関わるのが<正規・非正規>の区別である。少し調べて見ると、非正規社員の定義すらはっきりしていないのが分かる。そうした点が、いかにも日本的なのである。

下記は朝日新聞に初めて「非正規社員」という言葉が登場した記事からの引用だ。1990年1月の名古屋版の記事で、弁護士の大脇雅子さんという方の同紙へのコメントから。

 --現在のパートタイマーの地位はどうなっていますか。
 大脇:そもそもパートタイマーとは、1日8時間フルに働く人に対して、短時間しか働かない人を指します。しかし、日本でパートタイマーというと非正社員、という意味になっています。労働省の調べでも、女性パートタイマーの1割は1日8時間近く働いています。結局、正社員と区別して、安く使う手段なんですね。
 --パートタイマーにも正社員並みの権利を、ということですね。
 大脇:そうです。昨年夏、訪れたスウェーデンでは、パートタイマーの時間給が差別されていませんでした。幼児のいる男性社員は育児に協力出来るようにパートタイマーとして1日6時間働けばいい、といった制度も設けるなど、いろいろ工夫しています。昇進や退職金、福利厚生などでも、正社員とパートタイマーという身分差別はありません。7年ほど前、全国レベルで労使が話し合い合意したそうです。
 --日本の現状を変えるのは容易ではありませんね。
 大脇:パートタイマーの権利向上は意外に早く進むと見ています。労働省は昨年6月、パートタイマーの労働条件について指針を出し、また国際労働機関(ILO)はパートタイマー保護基準の制定を議題にすることを昨秋、決めました。90年代後半には、何らかのパート保護法が国内でもできるでしょう。
パートタイムの労働者=非正規社員と呼ばれていたわけだ。パートタイムはフルタイムの対義語。フルタイムが1日8時間であるのに対して、それより短い時間働く者がパートタイムである。大脇さんの話からすると、1990年にはもうパートでありながらフルタイムと同じだけ働いてる人たちがいた。ここで既に、何かがズレている。

毎日新聞に「非正規社員」が初めて登場するのは1995年。その年の『労働白書』の紹介記事。そこには、「パート、派遣社員、季節工といった非正規社員」という言葉がでてくる。単純に1日当たりの労働時間で括ることができなくなっていて、実質的に差別的な労働条件のもとで働いている人たちを非正規と言っているように受け取れる。問題の根は深い。

そもそものところだが、フルタイムとパートタイムは働き方の違いを示している。ところが、正規社員と非正規社員の違いは、働き方の違いではない。正規採用(考えてみれば、この考えがそもそもヘンだ)の制度に則って採用されのが正規社員、そうでないのはすべて非正規社員。同じ仕事を同じようにやっても処遇が違うという「身分制度」だ。

非正規(つまりは、正規に非ず)という言葉を、社員とか職員といった「人」の修飾語として用いるのをやめた方がいいと思う。非正規何とかって、その人を半端者って言ってるような響きがある。

一般財団法人雇用開発センターが運営するサイトに「正規社員と非正規社員の違い」が記されていた。https://www.hiraku-navi20.jp/about_us/index.html

正規社員と非正規社員の違い
(1)正規社員とは
正規社員の定義について、法律で明確にされてはいませんが、一般的には、会社内で正社員と呼ばれ、期間の定めのない雇用契約で働いている社員をさすことが多いようです。
(2)非正規社員とは
非正規社員の定義について、法律で明確にされてはいませんが、一般的には、契約社員やパートタイマー、アルバイト、派遣社員のように期間を定めた雇用契約により、正規社員と比べて短い時間で働く社員をさすことが多いようです。

労働法でも明確化されていないわけだ。使っている言葉が曖昧だから、問題の輪郭がいつまで経ってもはっきりしないままになる。なぜ定義づけしないのだろう。そうすることで不利益を被るグループがあるからだろうな。