2週間ほど前、僕が大学を出て最初に就職した会社の先輩から、栂池高原と八方尾根の紅葉の写真が送られてきた。今年の紅葉が最高潮の時期に訪れたらしい。日本の秋をどうぞ、という心遣いである。目にも鮮やな日本の風景だった。
それに触発された訳ではないが、近場でどこか紅葉がきれいなところ考えたあげく、カナダのモントランブラン(Mont-Tremblant)を訪ねることに。
今日、ニューヨークからカナダにやって来た。本当は先週あたりの予定だったのだが、大学の用事で一週間ほど遅らせた旅になった。
到着したモントリオール空港の入国審査場は、がらんとしていた。窓口も2つ開いているだけだ(先々週の月曜日は米国がコロンバス・デーで祝日だったため、その週末はずいぶん大勢の米国人が訪れたらしい)。
窓口の担当官から「目的は?」と問われ、短く「観光」と答える。彼女が入国記録のハンコをどこに押そうかパスポートをめくっている間、「これからモントランブランに行くんだけど、もう紅葉は終わりだっていう話も聞いていて・・・」と言うと、彼女はパスポートを僕に返しながらこう言った。「モントランブランに行くのね。とてもいいところよ。そうね、山の上の方はもう散ってしまってるんじゃないかしら」。
一瞬、僕の顔が曇ったのを見て取ったのか、彼女はこう続けた。「紅葉は散ってしまってるかもしれないけど、その分たくさんモミジが下に積もっている。私は落葉の匂いが好きなの。だから、その上を散歩するのが大好き」。日本の入国管理官で、海外からの旅行者にこんな気の利いた対応ができる人がいるか。頭の良さような20代後半のメガネ美人である。
モントリオールの空港から市内へ。そこからは、目的地のモントランブランまでバスだ。ローカル線のバスで、いろいろ回り道をしながら進む。地元の人たちが途中で次々降りていき、やがて乗客は僕だけに。そして約3時間半、最終地で下車した。