2012年10月1日

ヘルメットなし走行は危険か

以前も書いた通り、ニューヨーカーは自転車が好きだ。先日紹介したブルックリン・ブリッジもそうだが、セントラルパークやリバーサイド・パークなどでも自転車道がよく整備されていて、天気のよい休日などは多くのサイクリスト(こっちではバイカーと呼ぶ)が走りを楽しんでいる。

米国では自転車に乗る際のヘルメット着用は法律で定められたものではないが、なかば強制的な雰囲気がある。ヘルメットを被らず自転車に乗っている者を、安全意識や責任感にかけた人物とみなすところがある。喫煙者を見る目と共通しているかもしれない。

自転車を楽しむ人の多さは、自転車先進国とも言えるヨーロッパの各都市でも同様だ。ただ、自転車に乗る時にヘルメットをかぶるかどうかは両者でかなり異なっている。ヨーロッパでは、子どもへのヘルメットの着用は求められているが、大人はほとんど被らない。ヨーロッパの都市で、自動車の利用を減らすための方法としてバイク・シェアが普及している理由の一つは、ヘルメットの着用といった面倒なことが求められていないことにある。

あるデータによると、土地が平らで、道がよく整備されており、気候に恵まれたメルボルンではバイク・シェアの利用者は日に150人。一方、坂道が多く、舗装されていない道が多い、しかも寒いダブリンでは日に5000人がバイク・シェアを利用している。メルボルンはヘルメット着用が義務づけられていて、ダブリンはそれがない。

ヘルメットを被って自転車に乗るべきかどうか、シドニーのある大学の教授が数学モデルを使って調べたらしい。彼は「もしヘルメットを被って自転車に乗るというのなら、われわれは階段を上り下りする時や風呂に入る時にもそうすべきだ。なぜなら、そうした時に怪我をする確率の方がもっと高いからだ」と述べている。

レースに出場する場合やクルマの脇をすり抜けながら走らなければならない場合は別だろうが、自転車道を普通のスピードで走る時には、ヘルメットは被っても被らなくても大差はなさそうである。

周りのみんながヘルメットを被っているから、あるいはそうしないと危険に違いないから、というような先入観だけで行っていることは僕たちの周りには他にもありそうだ。たいして意味がないことを思い切って止めてしまうことで、何かが変わるということがある。

ところで、ニューヨークでも来年から自転車1万台をつかったバイク・シェアのプログラムが実行に移される。市長のブルームバーグは、ヘルメット着用を義務とすべきとする条例の制定要求を却下した。そうした条例によって自転車が危険な乗り物と認識され、利用する人が減少すると考えたからだ。現実的な判断である。