今朝は少し時間があったので、近くのダイナーで朝食を取ることにした。注文したフレンチトーストが運ばれてくるまで、コーヒーをすすりながら新聞に目を通していたら、店の親父が「この近くに住んでいるのか?」と話しかけてきた。「そうだ」と答える。今度は「日本人か?」と尋ねてきた。また「そうだ」と答えながら、吹き出しそうになった。
実はこの店で、この親父とまったく同じやり取りをするのは、これで3回目なのだ。まあ仕方がない。毎日何十人、日によっては何百人もの客が食事をしに来る店だ。そして、店のオーナーらしき彼は、来客となるべく親しくしようとしているのが分かるから。
ところがこれまでと違うのは、今度はいきなり隣の席に座っていた客が話しかけてきたことだ。それまで携帯電話でずっと話をしていたのに、電話を切るやいなや「おれは日本に行ったことがある」としゃべり始めた。
ブルックリンで画廊を経営している人物で、なんでも京都に友人がいて、来週にまた訪ねる予定だそうだ。その際にお土産として持って行くつもりの絵があると言って彼が鞄から取り出したのは、B4サイズ程度の画用紙に鉛筆で書いた線画である。
思わぬ事にぽかーんとしてると、そのおっさん、「ウォーホルだ」と言う。値段は2000ドル。絵の値段は門外漢には分からないから、「へえ〜」とか言いながら相変わらずぽかーんとしてたら、絵の右下に記されたアンディ・ウォーホル(とおぼしき)サインを指さしながら、30年前に5ドルで買ったと教えてくれた。
その絵はどう見ても10秒か20秒で描いたイタズラ書きに近いものにしか見えなかった。5ドルで手に入れたその絵が、今は2000ドル。右下のサインがあればこそだ。
マーケティングの仕事には、そうした「サイン」をどうやって作るかと云う面もあるなあとやって来たフレンチトーストをほおばりながら考えていた。
彼にその絵の写真を撮らせてくれと頼んだが、断られた。