2018年7月23日

これは立派な(今でいうところの)デザイン思考だ

黒沢明監督と組んで多くの仕事をした、日本の映画界を代表する脚本家の橋本忍さんが先日亡くなった。享年100歳。

新聞に彼の弟子とも言える脚本家の中島丈博氏が追悼の言葉を述べていたが、そのなかで橋本さんの仕事ぶりに触れたところが面白かった。

仕事をするのは、判で押したように朝9時から夕方6時まで。時間になると筆を置く。物書きと言うより職人のようだ。その一方で、山師のように当たるネタを直観でかぎ分け、「今度はこれで世間をあっと言わせてやる」と賭け事を楽しむかのように作品作りに没頭する。

またストーリーを組み立てるための具体的な方法として、次のようなことを弟子の中島氏とやっていた。
書き出す前に、まず場面ごとの簡単な説明(箱書き)を僕に模造紙に書かせ、それを旅館の畳敷きの広間にずらっと並べる。俯瞰しながら「このシーン、いらないよ」「こっちとこっちを差し換えて」と、順番をかえていく。実際に脚本に取りかかるときには、最後の場面まで(構成が)完璧にできあがっていた。
これは今流行りのデザイン思考のシナリオライティング版である。さすがだ。

僕の愛読本のひとつに彼の『複眼の映像』(文藝春秋)がある。この週末にまたページを開きたい。