第二次世界大戦中、ナチスドイツが組織的に行ったホロコースト(ユダヤ人の大量虐殺)の犠牲者は600万人に上るといわれている。
なかでもポーランド南部にあった「アウシュビッツ強制収容所」にはユダヤ人、政治犯、ロマ・シンティ(ジプシー)、精神障害者、身体障害者、同性愛者、捕虜、聖職者などが収容され110万人が虐殺された。
アウシュビッツには一度に2,000人が入れられたという4つの巨大なガス室があって、ユダヤ人たちはそこで10人のうち9人、全体で100万人以上が殺されたとされる。
第二次大戦中は、アウシュビッツでそうした虐殺が行われていたことはナチスによって厳重かつ巧妙に隠匿され、明らかになっていなかったことを映画『アウシュビッツ・レポート』で知った。
映画は事実がベースになっている。主人公は2人のユダヤ系スロバキア人。彼らは1942年に強制収容所に入れられ、44年4月10日に実際にアウシュビッツを脱走した。「中」で何か行われているのかを外に知らせるため、十数日かけて命を削りながら逃げていく姿が凄まじい。
その2人、ヴルバとヴェツラーは、収容所の内実を伝える32ページのレポートを作成した。後にアウシュビッツ・レポートとして連合軍に報告されることになるこのレポートには、収容所のレイアウトやガス室に関する詳細などが描かれていた。
収容者に送られた人たちは一列に並ばされ、最初に「右!」「左!」とナチの担当者によって2分される。一方は、病弱な人、妊婦、子どもなど、その場で殺される一群。肉体労働に耐えられる男たちは重労働を強いられた後、ガス室で殺されることになる。
ナチスドイツの連中はよくこんなこと考えるなというような様々な手段で、収容者は極限まで痛めつけられる。肉体的にはもちろん、精神的にも人間がボロボロになるまで追い詰める。
収容された人たちが山中で頭だけ出して地中に埋められ(これって、自分でその穴を掘らされたんだろう)、ナチスの伍長がそれをスイカ割りをするごとく棒でめった打ちにするシーンには背筋が凍る戦慄を覚えた。
所持品はすべて奪われ、丸裸で殺され、そのままゴミのように積まれて放置されている無数の亡骸の山が方々にある。地獄絵だ。
これが歴史的事実として認識されているアウシュビッツに関する出来事である。
ナチスドイツによるこれらの行為は、語り尽くすことができない。もうこれで十分というところには、たぶん永遠に行き着くことはないだろう。
だから今回、東京オリンピックでその開会式の前日だったにもかかわらず、予定されていたショーディレクターの小林賢太郎がホロコーストをお笑いネタにしていた過去の行いから解任されたのは当然の判断だった。
もし彼を解任せず、オリンピックが始まったあとにその事が明らかになった場合、IOCとJOCに厳しい批判が寄せられただろうことは想像に難くない。
この解任の件で記者会見に臨んだ組織委員会の橋本聖子会長は「これは外交上の問題もあると思っている。早急に対応しないといけないと解任の運びになった」と理由を説明したが、理解しておかなければならないのは、これは「外交上の問題」ではなく「倫理人道上の問題」であるということ。
そういえば、以前、麻生太郎副総理が「(改憲のために)ナチスの手法を学べばどうか」と語ったことで各方面から顰蹙を買った。なぜ解任されなかったのだろう? 不思議だ。