2026-04-10

シェークスピアの妻を描いた『ハムネット』

シェイクスピアの名は誰でも知っているが、その実際の人物像や生涯には謎が多い。謎が謎を呼び、世界中でこれまでも数多くの創作の素になってきたが、さらにその実体が不明なのが彼の家族についてだ。

年上の妻だったアン・ハサウェイはどんな女性だったのか。彼らの息子が少年期になくなったのは何が原因だったのか、今も不明なままだ。 それでいながら、シェイクスピアの妻はこれまでずっと悪女としてこき下ろされてきた(ソクラテスの妻と同様に)。

映画『ハムネット』は、その女性を主人公にすえ、シェイクスピアの戯曲『ハムレット』と11歳でなくなった2人の息子ハムネットを想像力で結んでいる。

本作品の主人公のアグネスを演じるジェシー・バックリーが実にすばらしい。圧巻の迫力と演技力である。劇中の彼女は鷹を操り、種々の野草のもつ効果について詳しい知識を持ち、自然そのものと交感する力を持っている。そうした原始的な強さと魔性を持つ女性を自然とこなしている。

 
自然のなかで自己の精神を守り続けていく女性は、本作品の監督であるクロエ・ジャオが2021年に制作した『ノマドランド』でフランシス・マクドーマンドが演じた主人公も同様だった。 
https://tatsukimura.blogspot.com/2021/04/blog-post.html

原作小説を書いたマギー・オファーレンとクロエ・ジャオの共同脚本による本作品は、悪女として扱われてきたシェークスピアの妻を「再生」させ、謎に包まれた夫婦の関係を息子の死を中核にしながら、2人の出会いと相克、そして喪失と再生を想像力豊かに作り上げた。

終盤、ロンドンのグローブ座で劇中劇として『ハムレット』が上演される。当時は椅子などなく観客は全員立ち見で観劇しているのだが、その最前列で夫の作品を観るアグネスがその芝居によって「再生」されていく様がなんとも感動的に描かれていた。なるほどこれならアカデミー主演女優賞を受賞したのも当然と納得した。

観客は予想と違って男性が7割! そして、その7割は僕より年上の人たちだった。