キリンホールディングスが、経営戦略会議にAIが生成した仮想役員を導入するという。
過去の議事録や外部情報を基に、マーケティングや法務など各分野を専門とする12の「人格」が論点提示や情報提供を担うのだとか。
その目的は経験や直感だけによらず、客観データを基にした迅速な経営判断を手助けするためだとしており、その発想はなかなか結構である。
それらAI役員は、マイクロソフトやグーグルが提供するモデルを基盤にキリンHDが独自に開発したもので、過去10年間分の取締役会と経営戦略会議の議事録を記憶させたという、
なかなか面白い試みで、これまでになかった戦略が出てくるかもしれない。ただ一つ気になるのは、なぜ過去の取締役会や経営戦略会議の議事録をAI役員に取り込んだのか。
果たしてそうすることが、より高度な戦略立案や意思決定への示唆に役に立つのか。むしろ逆効果にならないか。
これまでの経営者たちによる議論や意思決定プロセス、組織内の習慣性癖といったものは一切教えず、純粋に客観的な市場データや顧客に関するデータ、財務データなどから取るべき最適な戦略の策定や意思決定案を考えさせるべきではないのかね。
個人も組織も、間違った思考パターンで猛烈に学習し続けることほど危険なことはない。
私が以前、ある上場企業から社外取締役の就任を依頼されたとき、まず最初にやったことは、その会社の会議室にこもって過去10年間分の取締役会議事録にすべて目を通すことだった。
その目的は、そこに記されている「過去」を理解した上でそれをフォローするのではなく、逆にその会社の経営上の癖を知ることで、そうしたものに自分が組みせずに取締役として適切な意思決定をするためだった。
今回のキリンHDのAI役員たちも、過去の取締役会や経営戦略会議の議事録の内容をそのような狙いで理解し、今後の新たな方向性作りに生かしてくれると良いのだろうが、果たしてそこまでAIが気を利かせてくれるものなのかどうか、私には定かでない。
現在キリンHDには12名の取締役(こちらは人間の)がいるけど、その数は5年後には半分に減っているのだろう。
ところで、「人格」を与えられる12のAIは会議の場で何と呼ばれるのだろう。まさかキリン1号、キリン2号・・・とか。「南極1号」か!