2022年1月24日

マーケティングは、そこにあった

マーケティングの分野を代表する世界的な学者として、アメリカ人のフィリップ・コトラーがいる。彼が書いた『Marketing Management』は、今も世界中のビジネス・スクールにおいてマーケティングの定番テキストとして用いられている。
 
僕自身、30年ほど前に英国のビジネス・スクールで学んだとき用いたテキストが、同書の第7版か8版だったように記憶している。初版は1970年頃で、今は第16版あたりが最新版として出ている。移り変わりの激しい分野で、これほどまでに長く、そして広く読まれていること自体が優れたマーケティングである。
 
彼はまた、そうしたテキスト以外にもマーケティング分野の多くの本を書いている(ただし、最近の共著書上の彼の名は、ほとんど名義貸しだが)。そして日本の出版社が、それらの翻訳本を売らんがためなのであろうか、彼を書籍広告などで「マーケティングの神様」と称して紹介している。

マーケティングの神様とは何だろうと思うのだが、確かにかつてはセールスの別名としてアメリカで考えられていたマーケティングを整理し、今のマーケティングの体系を築き示してきたのは彼の最も大きな功績の1つだ。

僕自身コトラーの本の翻訳を何冊か手掛けているし、また彼と何度か直接会って話したこともある。そして今も時折メールのやりとりをするのだが、ある時彼にあなたの本が日本で広告されるとき、日本の出版社はあなたのことを「マーケティングの神様」と呼んでいると伝えたことがある。
 
それに対して彼は、自分は神ではない、自分はマーケティングを創造していない、マーケティングはそこにあった、と言う。

神、すなわち創造主としてマーケティングを創ったのではなく、市場現象としてそこにあったマーケティングを彼は様々な分析方法やコンセプトを用いて整理し、体系化したという。
 
確かにその通りだろう。そう、マーケティングは既にそこにあったのだ。