ヴィオラ奏者・今井信子さんへのインタビュー記事を読む機会があった。
ヴィオラは日本ではバイオリンに比べて注目度の低い楽器だが、甘くふくよかな響きを聞かせてくれる弦楽器だ。その音域は人の声に近く、聴く人の心に響く音色である。
彼女はオーケストラに属さず、ソリストとして長年活躍してきた。もともとバイオリンを弾いていたが、音大時代に演奏旅行で訪ねたボストンの音楽祭(タングルウッド)でヴィオラのソロを聴いて虜になり、バイオリンから「転向」したらしい。
当時の日本ではこの人といった指導者がいなかったため渡米。エール大学の大学院で学び始めたが1年で辞めてNYのジュリアード音楽院に入り直した。
その後イリノイ州の弦楽四重奏団で経験を積み、その後は欧州へ拠点を移す。そうやって、道場破りのような武者修行を行いながらヴィオラ奏者の腕を磨いてきたという。
今は自宅からネットで簡単に楽譜をダウンロードできるし、ストリーミング・サービスで聴きたい音源にいくらでもふれることができる。だが当時は、楽譜も音源も簡単には手に入らなかった時代。
そうした不便な時代だけど、彼女にとっては最高だったという。
すべて自分で見つけていかなければならなかった。自分で譜面を探して、音源に頼らずに演奏をつくり上げていく。その作業は何よりも楽しかった。不便だったければ、最高でしたね。
それは彼女にとって、想像力を働かせながら自分の音を探し求めることだった。
誰かの音源を聴くのは簡単です。でもそればかりだと、真似をするだけになってしまいますから。
ヴィオラ奏者として、今井さんはつねに自分の音を持とうとしてきた。
いまは誰もが真似することだけ上手になっている時代だ。音楽家でなくとも、その気持ちがあれば誰でも自分の発想を持つ、自分の表現を持つ、自分の言葉を持つことはできる。AIに大事なそうした作業を奪われないようにしないと、と思う。