アカデミー賞受賞有力作と言われている、スティーブン・スピルバーグ監督の『ウエストサイド・ストーリー』のリメイク版をレイトショーで観た。
リメイクというのも変だな、元々の1961年製作の同映画(ロバート・ワイズ、ジョローム・ロビンズ監督)は舞台がもとで、その元々の話はシェークスピアの『ロミオとジュリエット』が下敷きになっている。
まあ、よくよく考えてみると、およそほとんどの創作物にはなんらかの下敷きがある。明らかなベースと言えるものがなくても、人が創造する限り影響を受けたものがないものはない。
今回のスピルバーグが監督したウエストサイド・ストーリーだが、冒頭に登場する土地開発中(つまり工事中)のニューヨークを映したカメラワークがいい。センスと技術と予算があるな〜、といきなり惹き込まれる。
この作品、広告には「禁断の愛の物語」などと書かれているが、禁断でもなんでなく、どこにでもある普通の男女の物語である。が、それをこのようにドラマ化して見るものの心に強く訴えるものにできる芸術性というか表現力は素晴らしい。
何よりもバーンスタインの音楽は、いまも色あせない。最初にブロードウェイのミュージカルとして公演されたのは1957年のこと。バーンスタインと言えば、『ウエストサイド・ストーリー』の翌年に常任指揮者に就任したニューヨーク・フィルやウィーン・フィルの指揮者として思い出されるが、作曲家やピアニストとしても知られた存在で、ジャズについても詳しかった。
物語の舞台は1950年代、開発が急速に進むニューヨークのアッパー・ウエストサイド。建設中らしいリンカーン・センターが出てくる。映画の撮影は、街のシーンを含めて多くはスタジオセットだろう。今から60年以上前のニューヨークを描くのだから仕方がない。
そのなかで、実際に今もニューヨークにある観光スポットが使われていた。劇中では名前など出てこなかったが、マンハッタンの北部、フォート・トライオン・パークにあるクロイスターズ(The Cloisters)だ。中世の修道院様式の美術館で、ユニコーンのタペストリーを何枚も展示した部屋や小さいながらも雰囲気のある中庭が印象的だった。今回の映画には、主人公の二人がその中庭で語らうシーンが描かれていた。
今の若者からみれば、この作品に登場する若者たちは、ちょうど自分たちのおじいちゃんとおばあちゃんの世代だ。だけど、そこで繰り広げられている、ひょっとしたら取るに足らない闘争とそれが生む分断は「今」と驚くほど似ている。米国内でトランプ的な考えが生んだ社会の分断だ。アメリカの映画界には民主党支持者が多いことも考えての映画作りだろうか。
このスピルバーグ版では、リタ・モレノがヴァレンティナという新たな役を演じた。その彼女がトニーに話す台詞 "Life matters, even more than love" には、これまでのシンプルな恋愛至上主義ではない価値観が込められている。
アカデミー作品賞受賞はどうか分からないが、いくつかの部門賞はまず獲得しそうだ。