メタバースについて見聞きする機会が増えてきた。ネット上に作られたその仮想の3次元空間で、人は日々働き、学び、遊ぶことができるという。
そこではアバターと呼ぶ自らの分身が、本人に代わって仕事をしたり、人と話をしたり、レジャーを楽しむことができるわけだ。ありがたや、ありがたや。
現実の空間ではないので、そこを訪れるための物理的な距離の制約はない。だから、体が不自由な人でもそこで仕事ができる。また、アバターという分身が動いてくれるおかげで、実は人と話すのが苦手だという人も相手とコミニケーションを取りやすくなるかもしれない。
ただ、その仮想世界の中で活動するためには、その独自の世界を見るためのヘッドマウントギア(VRゴーグル)を被らなければいけないはずだ。そうやってその世界に没入するわけだね。
そこでふと思ったのだけど、目の不自由な視覚障害者にはそこでの活動の場があるのだろうか。
彼らは視覚情報を他の感覚、つまり聴覚、嗅覚、皮膚感覚などで補っている。ゴーグルからは音は聞こえてくるだろうが、実空間と違って微妙な音の方向や距離や響き、反響といった情報は捉えられないのではないか。
嗅覚情報や皮膚で感じる情報(風邪や日の光)もない。彼らは、メタバースのなかではいっそう迷子になってしまいそうだ。
これまた今流行りのSDGsとやらが書かれた国連の計画書の冒頭には「われわれはこの共同の旅路に乗り出すにあたり、誰一人取り残さないことを誓う」("As we embark on this collective journey, we pledge that no one will be left behind.")と高らかに宣言されている。
SDGsの意味を理解していようがいまいが、メタバースを新たなビジネスの機会と考えている企業の経営者は、この宣言を思い起こし、視覚に障害のある人たちを取り残さないよう自分たちがどうしたらよいのかを考えておいて欲しい。