2022年12月5日

アニー・エルノーの作品を映画化

映画『あのこと』は、2022年度のノーベル文学賞を受賞したフランスの作家、アニー・エルノーの自伝的小説 L'événement が原作。日本では「事件」という題名で出版されている。英語版はEvent。

先日の『アムステルダム』とは対照的にテーマとストーリーは極めてシンプル。1960年代のフランスで予期せぬ妊娠をした一人の女子大生が、いかにして堕胎をするかというのがすべて。

当時のフランスでは人工妊娠中絶は違法。本人だけでなく医師も、それを幇助した者も罰せられることになっていた。

未婚の母になれば学業を続けることは無理。自分が思い描いた将来は遠のいて行ってしまう。かといって医師らは罪に問われるのを避けるため中絶手術を拒む。彼女は、最後には自分自身で片を付けることになる。

この作品は、どうしようもなく痛かった映画。これほど身を固くして観た映画は他にちょっと思い出せない。

今年6月、米国において共和党支持者が半数以上を占める連邦最高裁が、それまで合憲としてきた人工妊娠中絶を違憲とした判決を行ったことを否が応でも思い出す。

この作品は焦点を中絶に絞ったうえで、法律が人の生き方を不条理に縛っていること、社会が個人を抑圧し、その自由と未来を奪う同調圧力に満ちていることをシンボリックに表している。省みられなければならない社会的規範はその他にもたくさんある、ということだろう。

本作でオードレイ・ディヴァン監督はベネチア映画祭金獅子賞を獲得した。