2022年4月1日

Codaが作品賞を受賞

 
「コーダ」は劇場公開からふた月がたっているが、今回の米アカデミー賞作品賞を受賞したからなのか、近くのシネコンでいまも上映していて間に合った。Apple TV+は契約していないし、ネット配信してても映画はできれば劇場で観たいからね。

タイトルのCODAは、Children of Deaf Adultsの略。両親がろう者の子供のことを指す言葉らしい。主人公、17歳の高校生ルビーがそうだ。両親も兄もろう者で、家族の中で彼女だけが健聴者だ。
 
アメリカ東海岸の街で漁師を営む一家の物語だが、うまいキャスティングと練られたシナリオが観るもののこころを打つ物語を見せてくれる。決してお涙頂戴ではなく、まっすぐで、そしてユーモアにも支えられている。

ルビーの両親、そして兄を演じたのは実際にろう者の俳優たちだ。母親役のマリー・マトリンは『愛は静けさの中で』の主演でアカデミー賞を受賞している。そして、父親役のトロイ・コッツァーが本作品でアカデミー助演男優賞を受賞した。

この映画は、ルビーがその歌の才能を高校の音楽教師から認められて音楽大学を目指すという青春物語でもあり、また音楽映画でもある。中心に据えられている曲は、ジョニ・ミッチェルの「青春の光と影」。シックスティーズ!
 
この曲の原題は、Both Sides Now。ルビーのおかれている、ろう者の世界と健聴者の世界、一家に欠かせない「通訳」としての自分と未来を自らの手でつかみたい自分、そうした2つの領域で揺れている彼女の思いを反映しているかのようだ。
 
高校を卒業した後、ろう者の家族を支えて漁師の仕事を続けることは彼女にとって不幸な選択ではなかったが、必ずしも心底望むことではなかった。音楽教師(いいキャラクターだ)の強い勧めでバークリーで勉強をしたいと考え、ある日、家族に相談する。母親は「あなたがいないと困る」と進学に反対する。
 
母親はルビーにこんな話をもらす。ルビーが生まれたとき、母親はその赤ん坊が健聴者であると知って失望したと。なぜなら、自分たちとは違う世界に行ってしまうと感じたからだと話す。この映画の重要なメッセージがその一言に込められている。
 
映画の結末部分、ルビーは家族の祝福を受けてバークリーのあるボストンに向けて旅立っていく。映画のタイトルであるCodaは音楽記号でもあり、それは楽曲において主題とは別につくられた終結部を示す。ルビーの家族からの旅立ちのように。 
 
冒頭で流れるのはブルースシンガーだったエタ・ジェイムズの曲で、それ以外にもマービン・ゲイやデビッド・ボウイが流れる。選曲のセンスがいい。後で、この映画での音楽は LA LA LANDで音楽を担当した人だと知った。