2022年4月24日

これぞ、反マーケティング

吉野家の常務取締役なる人物が、早稲田大学が主催する社会人向けのマーケティング講座で放った言葉が世間を騒がした。

「生娘をシャブ漬けにするための戦略」という、「田舎から出てきた世間知らずの若い女性客を牛丼中毒にする」アイデアを受講者にチームで考案させる講座である。

吉野家の経営陣の一角を担うその人物は、自社の商品にまったく愛情を持っていないように思える。また同様に、自分たちの顧客にも愛情の片鱗すら感じていないようだ。

生娘、シャブ漬け、という身の毛がよだつ言葉を教室内で聞きながら、「講義の流れがあったから」などとうそぶいて、牛丼常務をその場で諫めなかった大学の人間の体たらくにも腹が立つ。

そうした今回の残念な出来事のなかでひとつだけ救いだったのは、件の発言に関して運営サイドにきちんと苦情を申し入れた受講者がいたことである。

その受講者は、その後のメディアの取材に対して以下のように語っている。
酷い性差別であるのはもちろん、覚醒剤で苦しんでいる人もいるのに、冗談にして笑って話して良いことだとは思えません。男性客に対しても『家に居場所のない人が何度も来店する』という趣旨の発言がありました。 
企業の社会的価値が求められる時代に顧客を中傷する発言をすることに強い怒りを覚えましたし、その発言が教育機関でなされたことにも驚きました。 
また、本心は分かりませんが教室にいた受講生の中には笑っている人もいて、温度差を感じました。
また彼女は、その時のことを振り返って次のようにも述べている。
社会にも企業にも学校にも、当たり前に年齢も性別もバックグラウンドも多様な人がいます。けれどこうした偏った発言の1つ1つが、日本社会から多様性を排除していると思います。
こんな言葉は下の世代には絶対に聞かせたくない、その思いを誰かに理解して欲しくて抗議しました。高い意欲を持って学びの場を活用されようと考えていた、他の受講生の方には申し訳ない気持ちもあります。

私自身は、講座はスタートしたばかりですが続けることを迷っています。マーケティングや授業よりも、人権意識を持つことの方が大切だと感じるので。
とてもまっとうな感覚であって、多くの人の共感を得る考えだと思う。教室の中には笑っている受講者もいたという情けなく呆れた状況で、このような思いをきちんと言葉で発してくれる人がいたことが、せめてもの救いだ。
 
吉野家の牛丼は、日本人の国民食のひとつと言っていい。早くて、安くて、旨い。それがいまは、例の常務取締役の発言とは何の関係もないアルバイトの人たちが店頭で客から嫌がらせを言われているという。
 
多くの顧客を不愉快な気持ちにし、社内で働く人たちも傷つけている。典型的な反マーケティングの一例だ。 
 
早稲田大学に講師として呼ばれたこの人物の発言については他にも色々言いたいことはあるが、とにかくまず言っておかなければならないと思うのは、こんなのは本来のマーケティングでも何でもないということ。これだけは、はっきりさせておかなきゃいけない。