横浜美術館が3月から大規模改装に入る。閉館に先立って愛知県美術館、富山県美術館と共同でトライアローグ展という名の20世紀の西洋美術を中心にした催しを行っている。
ピカソやミロ、クレー、ダリ、ポロック、マグリット、マティスなど多くに馴染みのある20世紀の西洋美術の有名作品が集められ、横浜を皮切りに、その後愛知と富山を回っていく展覧会である。シンプルなアイデアの優れた展覧会企画だと思う。
コロナ禍での開催ということで入館は事前の予約制。現地に少し早く着いたのでその近くを散歩した後、コーヒーを飲むために美術館向かいのブルーボトルコーヒー(BBC)の店に入った。
店の雰囲気は明るくてなかなか良い。スターバックスと違うのは、店の中央のカウンターには数名のバリスタが陣取り、ハンドドリップでコーヒーを入れる様を客らに見せていることだ。
出すのはサードウェーブと言われるアメリカ西海岸から生まれたコーヒーだが、そのコーヒーの入れ方は極めてオーソドックス。一杯ずつ豆を挽き、ペーパーフィルターを用いてハンドドリップでコーヒーを淹れる。
そうなのだが、友人と2人分のコーヒーができるのにやけに時間がかかった。とりたててそれほど混んでるわけではなかったにもかかわらず、スタッフの手際を見ていると、なんだか儀式めいた手順をご大層にやっているために余計な時間がかかっている。
種々の豆を扱っているわけもないのに、一杯ずつ豆を挽く。電動ミルだから挽く時間はあっという間だ。しかし、そのために一杯ずつの豆を機械に入れてセットしてスイッチを入れる。そうした手順があきらかにまどろっこしい。見ている客に、カップ一杯ずつそのために豆を挽いているよ、と見せるためなのはわかるが。これならまとめて挽いてもコーヒーの味には影響しない。
ペーパーフィルターを陶器のドリッパーにセットし、挽いたコーヒーを入れ、手でお湯を注ぎ、コーヒーをカップではなく透明のフラスコで受ける。そしてそれをカップに移す。どれも客に一連の作業を見せるためのもの。コーヒーそのものの本質から離れているのが気になる。
注文した2杯のコーヒーが出てくるまでに、店というかそのカウンターの前で待たされるわけであるが、僕たちが頼んだ2杯のコーヒーが仕上がるのに5分ほどはかかったろうか。5分くらい待てって? せっかちなもんでね。
まあそれはそうだろうと店頭でコーヒーを淹れているスタッフのやり方を見て、これなら僕が毎日淹れているコーヒーの方が確実にうまいはずだと思った。なにもマジックはない。うまいコーヒーを淹れるポイントはそんなに多くはない。
新鮮でいい豆を買ってくる。別にコーヒー豆の専門である必要はない。ただ、店の豆がつねに新しいものであることがカギだ。買って来た豆は小分けにして、必ず冷蔵庫で保存する。僕はブリキの茶筒に分けて保存している。ブリキ缶コーヒー(BCC)だ。
そして、コーヒーを淹れる直前にミルで豆をゆっくりと手挽きする。以前は電動ミルを使っていた。しかしある時、手挽きのミルを手に入れたのを境に、しばらく両方飲み比べてみることにした。電動で挽いたコーヒーの粉は均質できれいだ。手動は手間がかかるうえ、粉の大きさが多少大小が混ざったりしている。
だが、その方がなぜか美味しい味わいのあるコーヒーが仕上がるから不思議だ。
あとはやかんでお湯を沸騰させたあと、注ぎ口が象の鼻のように細く長くなってるコーヒー用のケトルにお湯を入れかえてドリップする。
紅茶と違い、コーヒーにはカンカン沸騰してるお湯は使わないほうがいい。独特のアロマを引き出すためには少し温度を下げ、93℃ぐらいでドリップをするのがちょうどいい。やかんからコーヒーケトルに入れかえることで、お湯はこうした適温になる。
あとは、まずはコーヒーの粉を少量のお湯で20秒ほど蒸らしてから、鼻歌でも唄いながらゆっくりお湯を注ぐくらいだな。これらの手順(というほどのものではない)でやれば、一杯500円のブルーボトルコーヒーよりも美味しいコーヒーが自宅で作れる。
もちろん店で寛ぐのには、自宅とは違ったそれなりの気分が味わえる悦びがある。