2021年2月17日

地上にどこにもない。だから「天国」

映画「天国にちがいない(It Must Be Heaven)」はパレスチナ人の監督、エリス・スレイマンが脚本・監督・主演した作品。


彼は、イスラエルのナザレ(イエス生誕の地)生まれのパレスチナ人。どういうことかと云えば、1948年に行われたユダヤ人によるイスラエル国家の設立宣言によって、パレスチナの土地にそれまで住んでいたアラブ人たちは、他の地へ逃げて難民となるか、その地にとどまることで「イスラエル人」となることを選ばされ、スレイマンは後者のひとりとして複雑な境遇で育った。

映画の主人公は、映画の出資者を探してイスラエルからパリ、ニューヨークと旅をする。どこでも彼が持ち込む映画の企画は断られてしまうのが、それは本映画の本筋とは関係ない(たぶん)。

イスラエルで、パリで、NYで、彼が目にするのは、さりげない風景でありそうで、パレスチナとイスラエルの関係を示すかのような奇妙な、そして時に不条理な風景である。

主人公の映画監督を演じるスレイマンは映画の中で始終黙ったまま。言葉を発するのは、「ナザレ」「私はパレスチナ人」という二言だけ。

言葉でなく、いくつものシーンで観る者にテーマを感じさせ、考えさせようとしている。それぞれの地で警官の集団が描かれる。そのモチーフが示すのは、理屈ではない権力の存在とその滑稽さ。その警官の集団は、パレスチナの地でのイスラエル人を現している。

警官と市民。警官と天使。そこにある対立にならない不釣り合いの権力の関係と構図。静かな、そして寡黙なユーモアとペーソス、そして深い哀しみを漂わせる作品だった。