2018年9月21日

リアリティが失われつつある時代を象徴する事件

今年1月にビットコイン(仮想通貨)約580億円が渋谷にある会社・コインチェックから盗まれたばかりなのだが、また同様の事件が起こった。

今回は大阪市にある仮想通貨交換会社テックビューロから約67億円相当が流出したという。流出の意味がいまひとつよく分からないが、ビットコインの時も「流出」が用いられていたところからは、流出=ハッキング=窃盗と判断できる。

不正アクセス(つまり窃盗)が起こったのは14日、異常を検知した(窃盗に気づいた)のが17日、被害届を出したのが18日、事件を発表したのが20日となっている。

大規模な窃盗事件で思い出すのが、今からちょうど50年前に起こった「三億円事件」である。「三億円強奪事件」とも呼ばれている。東芝府中工場で働く従業員523人分の年末ボーナスを載せた現金輸送車が、白バイ隊員に扮した犯人に騙されてジュラルミンケース3つに入れられていた3億円を奪われた事件。

当然、メディアでも長らく大々的に取り上げられた。捜査に携わった警察官の数、17万人。捜査にかかった費用は盗まれた3億円の3倍にのぼった大事件である。


3億円といっても一万円札でどのくらいの分量なのかすぐに分かるのは銀行員くらいだろう。だが、ひとつ29.4キロのジュラルミンケースで3つと言われると、その札束(金額)の膨大さと重さを頭に描くことができる。

お札そのものの重さは、一万円札で一千万円が1キロと聞いたことがある。1億円は10キロの重さだ。

1月に盗まれた580億円は、重量にすると5.8トン! 今回の67億円は670キロだ。半端な分量でないのが、重さ換算すると実感できる。

映画ダイハードで、ニューヨークにあるFRBの地下から悪党たちが膨大な金塊を盗むシーンがあった。そのとき使われていた「窃盗道具」は、なんとパワーショベル機だった。なにせ重いから、当然そうなるわけだ。

しかしデジタルマネーは、いくら大金であろうと重さはない。載せて逃げる車も積み替えに使うパワーショベルも必要ない。音もなく、いつの間にか盗み取られるだけだ。デジタルの世界では10億円の窃盗も100億円の窃盗もただ0がひとつ違うだけ。

今年の1月と今回、これほどの大金が盗まれた大事件であるにもかかわらず、世の中が三億円事件当時のように大騒ぎしないのはそのせいか。

今後もこうした事件が現れるのだろうが、リアリティに欠けるだけにその重大さが薄まっていくのが怖い。