2025-04-13

観光黒字がデジタル赤字を越えた?

先日、日経のニュースで「デジタル赤字、訪日客で取り返す」という見出しの記事があった。インバウンド(訪日外国人観光客)の増加による収支の黒字拡大のおかげで、デジタル赤字が相殺されるまでになったというのだ。

新型コロナウイルス禍後の訪日客の回復を受け、24年10月以降の旅行収支は6,000億円(月額)前後の黒字で推移しているという。一方、2024年のデジタル赤字は約6.6兆円(財務省データ)だから、確かに数字を比べればその通りだ。

だが、だからといって安心するのは間違っている。訪日外国人が日本国内で消費するもの、たとえば宿泊、飲食、ショッピング、移動に使う支払いと、日本人のクラウドサービスやNetflixなどのストリーミング・エンターテイメントに対する支払いは性格が異なる。

違いはいろいろあるが、ここではその最大のものとして社会的費用を指摘しておく。われわれが毎月クレジットカードから課金される米IT企業への支払いは、そのまま限界利益として彼らの収入になる。すべて実体のない、デジタル上の取引だからだ。

ところが、観光客には実体がある。当たり前だ。だからその出と入りを上手くコントロールしないとオーバーツーリズムをはじめとする各種問題が発生する。たとえば、観光地で住民の人たちが日常の足として使っているバスからはじき出されたり、周辺にゴミを散らかされたり、深夜に騒音に悩まされたり、場合によっては物理的な被害(破壊や犯罪)にあうことすらある。

こうした観光地を中心とした数々の生活環境の悪化、住民らのストレスの増大をどう見るか。インバウンドによる国の収支を語るとき、こうした社会的コストは計算に入れられていない。訪日外国人観光客数の増加を無邪気に喜ぶだけでは、社会の中にひずみが増していっているだけだ。

このままでは間違いなく、「冗談じゃない、何が観光立国だ」という反発がさらに強まるのは必至だろう。

読売テレビサイトから