2023年8月24日

理解していないのに賛成できるのはなぜ

福島原発の「要処理水」——政府や東電はその水を「処理水」と呼んでいるが、処理済みではない——が今日から福島沖に海洋放出される。

関係者の同意がなければ放出しないと言っておきながら、いざとなったら無視。自分たちの既定路線に沿って、放出の準備は以前から進められていた。五輪招致の時、安倍元首相は「アンダー・コントロール」と世界に向けて言ったが、汚染水が日々貯まり続け、その保存場所がいずれなくなる事は最初から分かっていた。

投棄する場所は海中と大気中の2つの選択肢があるが、大気中へ放出するプランはどれくらい真剣に検討したのだろう(米国のスリーマイル島の原発事故のケースでは、大気放出が選ばれている)。今回、2つの方法の是非はどれくらい科学的に議論したのだろう。

海の方が国民の同意を得やすいという理由で、当初から「海中放出」が国の考えにあったように思える。というのは、「大気中へ放出」より「福島沖の海へ放出」の方が国民にとっては「自分には直接の影響がなさそう」と思えるからだ。自分ごと感が圧倒的に薄くなる。

海水で1200倍に希釈すれば、トリチウムが基準値以下になるから海洋放出しても構わないという理屈が分からない。ほとんど無尽蔵の海水で薄めれば、何だっていくらでも薄められる。だが、いくら薄めても元の放射性物質の量は変わらない。

トリチウムを水に流して捨てるのではなく、そもそも除去する技術はないのか。研究はどこまで進んでいるのか。その技術を人類が持てない限り、原発はやはり不適切なのではないか。

汚染水の放出期間は「30年ほど」と発表されているが、政府が今30年と言っているということは、実際はそれでは決して終わらないということ。50年か、70年か、いや100年経っても終了しない可能性が極めて大きい。なぜなら原発を廃炉できなければ今の汚染水は止まらないから。

格納容器に溜まった燃料デブリを冷やすための汚染水は、日々増え続けている。そして福島第一にある880トンのデブリは、まだ1gたりとも取り出せてない(取り出せたとしても、それをどこに保存する?)。つまり、現状では汚染水は<半永久的>に増え続けるということ、トリチウムの海洋放出もほぼ永久に続くと考えるのが妥当だ。岸田首相が「私が最後まで全責任を負って・・・」なんていくら言っても、その頃にはもうみんな死んじゃってる。

海洋放出についての国の説明について、国民の7割が不十分なままだと言いながら、5割以上が海洋放出に賛成しているのも不思議。みんな「人ごと」だからと思考が停止しているように思える。忘れやすく、お上に言われたことに対して盲目的に追従しがちな日本人の国民性を政府も東電もよく知っている。

安全だと主張し海洋放出するなら、東京湾に流したらいい。そしたら、国民(特に東京都民、神奈川県民、千葉県民ら)はもう少し真剣に考えるようになるじゃないかね。

ただそこのところで韓国や中国など、周辺の国の人々は日本人とは違う。たとえばBBCの報道では、そうした国の感情としてAngerとAxietyを指摘していた。元々の国民感情もある。それをほぐすための説明は十分になされたのか。なされてはいない。こうしたことは、理屈だけで安全だから安心しろって言っても無理だ。

https://www.bbc.com/news/live/world-asia-66599189