2021年4月13日

約束を反故にして処理水放出が決定された不可解さ

東電福島第1原子力発電所に貯まりに貯まった汚染水を、政府は浄化処理した後に海に流すと発表した。

さまざまな処理を施し、海水で薄めに薄めて「安全」といわれる基準にして2年後から海に放出する計画だ。貯まった汚染処理水の量は、聞かされてもまったくリアリティがわかないただの大きな数字だが、とにかく福島第1の敷地に設置されたタンクの数々は来年秋以降はもう満杯、これ以上留め置くことができないと国は言う。

物理的に限界を迎える敷地の様子を写真で見せられると、そうした処置が現実的なのはわかる。だが、その日が来ることは以前から予測できていたはず。

東電はかつて、関係者の理解がなければ「いかなる処分もしない」と明言していた。今回、そうした約束に対して知らぬ顔をし、海洋放出を一方的に決めたことに漁業関係者が反発するのは当然である。あの約束はなんだったのか、と漁業関係者でなくても疑問に思う。その場しのぎで、人をバカにしていたわけだ。

確かに化学処理され、水で薄められた汚染水は、基準値に照らし合わせれば人体に危険なものではないらしい。そこには科学的な根拠が示されていて、それは漁業関係者も理解している。彼らが多大な懸念を抱いているのは、風評被害と呼ばれるものだ。

漁業関係者だけではなく、農業に携わる人たちも風評被害で震災以来辛酸をのまされてきた。風評とは、良くない噂のこと。事実とは必ずしも関係がなく、人の抱く認知バイアスによって生じる思い込みのひとつだ。理屈ではないだけに、いっそうタチが悪い。

頭で分かってもらおうとしても、簡単にはいかない。しつこくしつこく、人の感情面に訴えて、やっと次第に修正されていくのを待つしかない。風評は粘着質なのだ。

放出予定の処理水が人体に悪影響がないなら、菅首相、梶山経産大臣、小早川東電社長の3人が、タンクから汲んだ水をテレビカメラなんかの前にならんで毎日一気に飲み干すというデモンストレーションでもやったらどうだ。

1年間毎日飲み続けるのを国民に見せれば、風評被害も収まるかもしれないゾ。