2024年10月19日

V字回復のその後

企業経営について議論をしていると「V字回復」という言葉がときおり登場する。V字回復は、辞書によると「一時は落ち込んだ業績や相場などが、V字形に一気に回復すること」とある。

巷でV字回復した例としてしばしば挙げられるいくつかの企業名がある。

    日本マクドナルド
    日本航空
    良品計画
    日産自動車
    マツダ
    森永製菓
    ジャパネットたかた
    ゼンショー
    パナソニックホールディングス
    ユー・エス・ジェイ、などだ。

だが、上記の企業において落ち込む一方だった売上のトレンドが上向きに変わったあと、それらの企業の業績が今現在どうなっているが気になる。

一時的に売上あるいは利益を好転させるのは難しいことではない。例えば安売りを集中的に行えば通常売上額は上がる。しかし利益が一緒にあがるとは限らないだけでなく、店頭での価格が低位で固定されるリスクもある。また人件費や研究開発費、マーケティング費を削ればその分の利益が増すが、中長期的な競争力を自ら削ぐことにつながる。

だからこそ、重要なことはV字回復そのものではなく、根幹のところで競争力を組織が身につけることだという方向へ議論は進む。

V字回復した企業において、気がつけばまた売上や利益が下降線をたどっているという例は少なくない。というか、回復したからといってそのまま半永久的に右肩上がりを続けられると思う方がおかしい。

「V字回復」を語るときの基本だろう。

立って読むか、座って読むか

地中海にあるマルタ島で行ったレストランのトイレ。

男性用と女性用がふつうに並んで設置されている

よく見ると、扉のピクトグラムに新聞らしきものを持った人物が描かれている。

なかなか難しい姿勢だ

こちらは問題なし


トイレの中では新聞にしっかり目を通せ、というメッセージだろうか。

2024年10月14日

AIコピーライター登場

電通が、明日からラジオCMの制作費を半額にするというサービスを始める。ChatGPTをベースにしたAIに、過去のラジオCMのコピーを一万件ほど学習させることで広告コピーを書かせる。

すでにオフィスの中で、AIが会議や打合せの議事録をまとめたり、プレゼン資料をつくったり、企画案を練ったりしている時代、そのうち広告会社のクリエーターの9割は世の中から消えていくと思っていたら、やはりその通りになってきた。

それにしても、コピーをAIに書かせるというだけで制作費が一気に半額になるとは、どういうことだ。もともと制作費をどれだけ上乗せして広告主に請求していたのか、ということになる。

いずれコピーだけでなく、ナレーションもAIが、広告にかぶせるBGM制作もAIが、SE(効果音)もAIが、そして編集やダビングもすべてAIがやってくれるはず。ラジオCMはテレビCMと違い、基本的にロケなど必要ないのでAI向きなのだ。

となれば、広告会社にCM制作を発注する必要などなくなる。それなりのスキルとセンスがある社員がいれば、広告主が社内でささっとつくれる。

今回の新サービスには、それが分かってて一刻も早く手を打たなければという代理店側の思わくが見える。

2024年10月13日

政治家は目と口だ

政治家は「目」と「口」だと思っている。

人として何を考えているか、政策立案能力はあるか、倫理観はあるか、リーダーシップはあるか、などなど、国民の視点で判断基準とするものは数多いが、いかんせんそうしたものは外から見えづらい。

だが、テレビやネットの画面上に映る彼らの「顔」は一目瞭然だ。そのなかで一番相手を引きつけるのは、間違いなく目。目にどれだけ力があるか、目が光っているか、誠実さを映し出しているか、それとも常に何かを隠している目か、われわれはほぼ直感的に理解する。

そして、現総理大臣のように目が死んでいる場合、つまりそこから多くのことを感じられない場合、われわれの目は彼らの口に向く。真実を語っている口か、情熱をもって相手に思いを伝えようとしている口か、人間としての清潔感を表している口か。

石破首相の場合、目が死んでいる。そして口元が不潔である。どうする。

2024年10月9日

試合終了のゴングは鳴ったはずだが

いわゆる袴田事件で、最高検が控訴をあきらめた。事件が起こって58年、容疑者とされた袴田巌さんに死刑判決が出て44年が経っている。その間、彼は日々、次の朝には死刑執行が下されるのではないかという恐怖のなかにいた(はずだ)。

今年7月に検事総長になった畝本直美は、袴田さんの無罪を言い渡した再審判決を「多くの問題を含む承服できないもの」「強い不満を抱かざるを得ず、控訴すべき内容だ」という異例の談話を出した。

初の女性検事総長として内部に向けて強いところを見せたかったのだろうが、客観的に見れば事実関係を理解していないとしか思えない。自分たちの権威を守らんがために往生際の悪いおかしな言い訳を繰り出すのはためにならないという事が分からないのだろうか。目が組織の内側にしか向いていない。

58年前の事件発生後、袴田さんは突如逮捕された。当時の捜査記録には「ボクサーくずれの被疑者を検挙し、県警の威信を高揚した」と記されている。なんたる職業的偏見か。

また捜査記録によると、犯行時間帯に現場付近を27人と120台の車両が通っていて、無灯火で走った車や止まっていた車2台もあったが、すべて究明されないまま警察は容疑者を袴田さんに絞り、袴田さんが犯行に及んだ動機を金目当てとした。なぜなら、袴田さんが怨嗟をもとに被害者家族4人を殺害する動機が見つからなかったからだ。

しかし、被害者宅で貴金属などの入ったタンスなどに物色跡はなく、多額の貯金通帳は手つかずのままだった。警察側が考えた犯行動機は一貫性を欠いていた。やがて、捜査機関が捏造したとされる衣類5点が、事件から1年以上もたって味噌だるから発見される。

繰り返すが、今回、検事総長は既に無罪判決を受けている袴田さんを今も犯人視し、判決を「承服できない」「強い不満」と述べた。どの面下げてそんなことが言えるのだろうか。試合終了のゴングが鳴ったあとも、ジャブを打ってきている。

畝本は女性初の検事総長を逆手に取られ、組織内の男たちから追い込まれたのかもしれず、そうすると確信犯はその男の検事らとなるが、まあどっちもどっちだ。

いま、映画やテレビのプロデューサーたちは、袴田巌さんとひで子さんを主人公にした作品の案を練っている。・・・に違いない。 

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(付)

検事総長の談話は次の通り(全文)(令和6年10月8日)

○結論
 検察は、袴田巖さんを被告人とする令和6年9月26日付け静岡地方裁判所の判決に対し、控訴しないこととしました。

○令和5年の東京高裁決定を踏まえた対応
 本件について再審開始を決定した令和5年3月の東京高裁決定には、重大な事実誤認があると考えましたが、憲法違反等刑事訴訟法が定める上告理由が見当たらない以上、特別抗告を行うことは相当ではないと判断しました。他方、改めて関係証拠を精査した結果、被告人が犯人であることの立証は可能であり、にもかかわらず4名もの尊い命が犠牲となった重大事犯につき、立証活動を行わないことは、検察の責務を放棄することになりかねないとの判断の下、静岡地裁における再審公判では、有罪立証を行うこととしました。そして、袴田さんが相当な長期間にわたり法的地位が不安定な状況に置かれてきたことにも配意し、迅速な訴訟遂行に努めるとともに、客観性の高い証拠を中心に据え、主張立証を尽くしてまいりました。

○静岡地裁判決に対する評価
 本判決では、いわゆる「5点の衣類」として発見された白半袖シャツに付着していた血痕のDNA型が袴田さんのものと一致するか、袴田さんは事件当時鉄紺色のズボンを着用することができたかといった多くの争点について、弁護人の主張が排斥されています。
 しかしながら、1年以上みそ漬けにされた着衣の血痕の赤みは消失するか、との争点について、多くの科学者による「『赤み』が必ず消失することは科学的に説明できない」という見解やその根拠に十分な検討を加えないまま、醸造について専門性のない科学者の一見解に依拠し、「5点の衣類を1号タンク内で1年以上みそ漬けした場合には、その血痕は赤みを失って黒褐色化するものと認められる。」と断定したことについては大きな疑念を抱かざるを得ません。
 加えて、本判決は、消失するはずの赤みが残っていたということは、「5点の衣類」が捜査機関のねつ造であると断定した上、検察官もそれを承知で関与していたことを示唆していますが、何ら具体的な証拠や根拠が示されていません。それどころか、理由中で判示された事実には、客観的に明らかな時系列や証拠関係とは明白に矛盾する内容も含まれている上、推論の過程には、論理則・経験則に反する部分が多々あり、本判決が「5点の衣類」を捜査機関のねつ造と断じたことには強い不満を抱かざるを得ません。

○控訴の要否
 このように、本判決は、その理由中に多くの問題を含む到底承服できないものであり、控訴して上級審の判断を仰ぐべき内容であると思われます。しかしながら、再審請求審における司法判断が区々になったことなどにより、袴田さんが、結果として相当な長期間にわたり法的地位が不安定な状況に置かれてきたことにも思いを致し、熟慮を重ねた結果、本判決につき検察が控訴し、その状況が継続することは相当ではないとの判断に至りました。

○所感と今後の方針
 先にも述べたとおり、袴田さんは、結果として相当な長期間にわたり、その法的地位が不安定な状況に置かれてしまうこととなりました。この点につき、刑事司法の一翼を担う検察としても申し訳なく思っております。
 最高検察庁としては、本件の再審請求手続がこのような長期間に及んだことなどにつき、所要の検証を行いたいと思っております。

以上

2024年10月7日

こんな人権説がまかり通っていいのか

元文部官僚の前川喜平氏が、石破茂が唱える日本国民にとっての人権説を書いていて、その内容に驚かされる。


人権というものは、人が人であることによって与えられているものだと思っていたのだが、新しい総理大臣はそう考えてはいないようだ。国家権力の意に沿わない者は国民としての義務を果たしていないと判断し、そこに人権はないとする。
 
そんな考えの人物が国家の最高意思決定者に就いてしまった、なんという危うさ。

2024年10月5日

NHKはカスハラを勘違いしている

東京都議会で、カスタマーハラスメント(カスハラ)の防止に向けた条例が全会一致で可決したというNHKのニュース。freeeという都内にあるネット企業の顧客からその会社の窓口にかかってきた電話の録音が番組内で紹介されていた。

その乱暴な話し方の方に意識が向いてしまうので、音声を消してみた。通話の内容は画面に表示されているとおりだ。

NHKの画面作成担当が何を思ったのか、ご丁寧に文字を躍らせるような演出をしているのが余計だが、この客が言っている内容そのものが果たしてハラスメントにあたるものだろうか。

ぼくには、彼が相手(企業の担当者)を傷つける暴言を吐いたり、彼(女)のプライバシーを犯すことをしているとは思えないのだ。彼は、ただとにかく腹を立てて、猛烈に怒ってどなっているだけだ。いささか常軌を逸しているが。

私が気になったのは、電話で強烈な苦情を言っているこの客がなぜこれほどまでに怒っているだろうということ。ここまで彼に強い怒り引き起こした原因が必ずあるはず。それを知りたいのだが、何も説明はなし。番組内で客の音声を流し、これはカスハラだ、と決めつけているだけ。報道としては片手落ちで明らかに配慮に欠けている。

先の都条例では、カスハラを「顧客から就業者に対し、業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの」と定義している。

また現在では、一般的な定義として、カスハラとは「顧客や取引先が立場を利用して店員や公務員に暴力をふるったり、理不尽な要求をしたりする迷惑行為」とされている。

例えば店員に土下座による謝罪を求めるなどは、明らかに就業環境を害する迷惑行為といえる。だが、このfreee社への電話で男が言っている内容は、そうしたものとは異なる。

この男性キャスターは、客からの通話の音声を紹介したあと、「こうしたカスタマーハラスメント、いわゆるカスハラを防ぐ全国初の・・・」と、さも当然のように言ってるが、自分の頭ではものを考えていない典型だ。

東京都は議会での制定を受け、本年度中に対策を盛り込んだ指針を示すとしているが、さてどんな指針が役人から提示されるのか。また、それを社会はどう受け取るのか、興味があるところだ。

そもそも暴力や暴行はハラスメントではなく、違法行為。それが誰からであろうが、警察にすぐに通報すればいい。スタッフが我慢する必要も、また我慢させられる必要もない。

また理不尽な要求に対しては「ノー」とはっきり言うことだ。ここにもハラスメントの入る余地はもともとないはずである。

僕自身は、カスハラ(Customer Harassment) という 、日本独特の概念がこれほど一般化するところに現在のこの国のオカシサを強く感じるとともに、日本企業が提供するサービスの品質が全体的に明らかに低下していることが一方で気になっている。

先日、あるカード会社が送って寄こしたサービス改定の文書に不明な点があり、問合せをした。電話番号をその企業のサイトで探したが、なかなか見つからない(見つからないようにしているとしか思えない)。やっと見つけて電話したら「ただいま電話が大変混み合っており・・・」で通じない。

何度もかけ直してやっと通じたら、「本人確認」とやらで、姓名、本人かどうか、生年月日、住所、引き落とし先の銀行名と支店名を言えと言われた。確認したかったのは彼らが送ってきた文書に印刷された文言についてであって私個人の取引内容とはまったく関係がないのだが。

しかたなく「名前は・・・、住所は・・・」とすべて答えてゲートキーパーは越えたものの、こちらが求める回答を出せる担当にはたどり着けない。なんとももどかしい。やっとそれらしい部署に電話が回っても、担当者が席を外しているので後でかけ直させるといわれ半日以上待つも一向に折り返しがないままその日が終わってしまったーー。 

自分たちが客に送った手紙の内容について問われ、容易に回答ができない。これをお粗末といわずして何という。

文書の発送日を9月吉日とするものどうかと思う。結婚式の招待状じゃないんだからさ。 日付を書けよ。

2024年10月4日

社員の幸福は何がもたらすのか

2023年3月期から、日本の上場企業は有価証券報告書への人的資本に関する数値の開示が義務づけられた。

その背景の一つには、幸福度の高い従業員はそうではない者たちに比べて創造性や生産性が大幅に高く、欠勤率や離職率が低いというデータがあるようだ。

そこで、企業の経営者は社員の幸福度を高めるようにしなくていけない・・・・と。幸福度が上がる → 創造性と生産性が高まり、欠勤率と離職率が下がる。という図式か。

だがちょっと待った。何をもって「幸福」と感じるかは、人によって千差万別だし、人の気持ちは移ろいやすく、その時々で何に幸福と感じるかは状況次第で変わる。

給料やボーナスの額か、休みの日数か、信頼できる上司か、良好な職場の人間関係か、与えられている役割か、企業の将来性への展望か、オフィス環境か、などその要因はいくつもある。真面目に考えれば、抽象度の高い「幸福」を経営者が満たすのは不可能といえる。

経営者が取り組むべき対象は、社員の創造性や生産性だ。経営者は社員の「幸福」を考える前に、そこで働く人たちが創造性を振るえて効率的に仕事を進められていると感じられる環境をつくることが先決なのではないか。

そうすれば、社員の幸福感はそのひとつの「結果」として現れてくる。

大切なのは、従業員の幸福感だとかウェルビーイングだとか、つかみ所のないフワフワした抽象概念を目標としないことである。

2024年10月2日

せいぜい頑張ってくれ、石破君よ

先週末の自民党総裁選、一瞬、高市早苗がトップになりそうな風向きで、「よしよし」と期待していたのだが、最終的には彼女は敗れてしまった。

彼女が自民党総裁になれば、安倍派の流れを継ぐ彼女は裏金問題や旧統一教会の問題で野党から集中砲火を受けることは必至で、結果として高市自民党政権は崩壊するのは間違いなかった。だから、リザード高市が自民党総裁選で負けたのは実に残念。

と思っていたのだが、買いかぶっていたようだ。総理大臣になった石破茂は思っていたほど頑強な人物ではないことがすぐ明らかになった。組閣の内容しかり、あっという間に衆院解散で総選挙など、その自信のなさ不甲斐なさを国民に露呈している。

「納得と共感の内閣」だとか。中学校の生徒会か?

これなら石破も高市と大差はない。せいぜい頑張ってくれよ、石破君。どうせ遠からず引きずり下ろされるんだろうから。

それにしても、石破が日本の総理大臣になったというのに、爆笑問題の太田の本音のコメントが聞こえてこないのはなぜだろう。

2024年9月30日

よかったね、袴田さん

26日に静岡地裁で、いわゆる袴田事件の無罪判決が出た。そもそもの事件は58年前に起こったものだ。58年前!

当時の検察の違法な自白強要と証拠捏造により東京拘置所に収監された。死刑囚としての収監期間は2014年3月までの47年7ヵ月に及んだ。

今回の判決に対する検察による控訴の期限は10月10日。事件当時の違法取り調べや捏造された証拠である衣服について、検察が自説を説得力を持って証明することはもう不可能だ。ただ、検察側が腐ったプライドを拭いきれず控訴する可能性はまだ残っている。

「袴田巌さんを救う市民の会」から送られて来た手紙には東京高検検事長宛の「請願書」の葉書が同封されていた。万が一の、これ以上の検察の愚かな判断を起こさせないためのせめてもの最後の一押しである。

袴田さんは現在88歳、支え続けてきた姉のひで子さんは91歳になった。無罪を勝ち取るというシンプルな目的のために毎日を生きてきた、彼らの苦悩は常人にとって容易には想像すらできない。袴田巌さんは、日本の「ハリケーン」だ。

2024年9月23日

映画「本日公休」

台湾映画「本日公休」の主人公は、台中の街で40年にわたり常連客の髪を切ってきた理髪店の女店主。自分に技術を教えてくれ、かつては一緒に店を切り盛りしていた夫はなくなり、一人で店をやっている。

3人の子供たちはそれなりに独立したが、まだいずれも地に足が付いていない感じだ。

娘からこんな時代遅れの店はやめた方がいいと言われても、彼女はいつもの常連客の頭にいつものようにハサミを入れる。変わっていく台湾の社会。世界のどこにでもあるジェネレーション・ギャップ。だけど、台中の街の風景には、「いつもの」暮らしと人間関係が染みついていて、それが実によく似合っているように思える。

彼女は、毎月離れた街から髪を切りに来てくれていた古くからの馴染みの客が床に伏していることを知り、めったに運転しない古い車でその町へ向かう・・・。

やっとのことでたどり着いたその家で、会いたかった古くの客である老人は息を引き取っていた。彼女は横たわる彼の髪を切り、整え、ヒゲをあたり、最後の理髪を行う。

彼女は、いつもの店で、いつもの客といつものように語らいながら、いつものように髪を切る。そのことで相手を知り、関係を自然と作るなかで自分の仕事や生きている意味を感じていたのだろう。自分がどこで生きているのか、自分は誰か、何をすべきかもよく分かって生きている。

本作では、それが決して頑迷さということではなく、ただゆるぎない一人の生き方として自然なものとして描かれていた。そこはかとないペーソスを秘めた佳作である。

2024年9月18日

社外取締役は、お勉強の手段か

シリアルで知られる日本ケロッグの社長である井上ゆかり氏が、彼女の経営者仲間の交友関係を新聞で紹介していた。

そこでは、知り合いの女性経営者であるみずほフィナンシャルグループ取締役会議長の小林いずみ氏から「勉強になるから」と、ある企業の社外取締役を勧められ、引き受けたといったことが書かれていた。

よく平気でこうしたことを公言できると思う。株主らは、彼女の「お勉強」のために社外取締役報酬を支払っているのではない。株主軽視と経営軽視もはなはだしい。しかも、そのことに自分で気づいていない。

また、みずほフィナンシャルグループ取締役会議長の小林も社外取締役の仕事を舐めてはいないか。 

「お勉強」なんだから、井上が社外取締役を務めている企業は、彼女に社外取締役の報酬を払うのではなく代わりに授業料を取ればいい。

海外のファンド、もの言う株主らから、日本企業は女性の取締役比率をもっと上げるべきだという声が寄せられている状況は知っている。だが、単なる数合わせでは何にもならないどころか、明らかに害だ。真剣に頑張っている女性社外取締役の人たちもいるのだろうが。

2024年9月17日

社員の解雇規制より、採用時の差別規制を徹底せよ

自民党総裁選の候補が、企業による社員の解雇規制の緩和を口にし、さまざまな意見が飛び交っている。

その口火を切った感じの小泉進次郎は、解雇規制の見直しによって流動性が高まる、そして労働市場が活性化する、生産性が高まると述べる。しかし、これは画餅に過ぎない。

解雇された労働力が、それを求める成長産業に流入してマッチングが果たされ、働く者も雇用する企業もプラスの効果を得られる、と考えているのだろうが大きな間違いだ。そんなデータはないし、確証もない。

ただし、組合側が主張するように、働く者が解雇されないことで「不安を感じず、思いっきり働ける」というのも嘘だ。不安があった方が、人はしっかり働く。安易な職の安定は停滞にしかつながらない。つまり、思いっきり働くのではなく、働くふりだけ上手くなる方向に進む。

さらには、そうした「安定」というのは、正社員にとっての特権でしかない。たまたま、そう、たまたま入社の仕方が正社員と違ったがために非正規として雇用された人は、いくら能力と実際の成果が優れていても正社員に見劣りする待遇しか与えられていない。これはおかしい。

同じ組織で同じ職につく正社員のAさんと非正規のBさんがいて、Bさんの方がAさんより明らかに優れていた場合、経営者はどう処遇を整えるべきか。可能性として考えられるのは、①AさんをBさんと同じ非正規に格下げする、②BさんもAさんと同じ正社員に登用する、③Aさんを非正規に、Bさんを正社員にする、の3案。

①は社内のモラルに影響を与える。②を実施できればそれにこしたことはないが、人件費が増す。③はそれなりにフェアだと思う。

ぼくは解雇規制は緩和したほうがいいと思う。その代わり、企業などは採用で人を区別してはならないというルールを徹底すること。新卒一括採用をデファクトにするのではなく、より柔軟に人をその能力に合わせて採用することが必須だ。

実際、人材採用に優れた企業は、新卒であろうが中途入社であろうが、能力に合わせて人を処遇している。当たり前のこと。

就職氷河期と言われた2001年、その年の新卒者の就職率はわずか57%だった。そのために、いまだに非正規の職でしか仕事を続けられない人が多いなどという不合理があってはいけない。

合理的に説明のできない正規 / 非正規の区別は、働く人を貶めている。そうした悪弊をすみやかに徹底的に組織からなくすこと。日本の組織の生産性を上げるためには、それが最優先されるべき方策である。

2024年9月14日

リーダーの資質

10日夜、米国のフィラデルフィアで大統領選のテレビ討論会が開催された。米ABCのキャスターの質問に答える形で90分間、カマラ・ハリスとドナルド・トランプが意見を戦わせた。


手元に用意することができるのは、何も書かれていないメモ用紙とボールペン、それとミネラルウォーターだけ。その場で投げかけられる質問に対して、何にも頼らずすべて自分で答える。誰かが書いた原稿を読むだけの日本の政治家とは大違いである。

アメリカの大統領にハリスがなるにせよトランプがなるにせよ、日本の総理大臣はその大統領と高度な交渉をこなさなければならない。だが、どう見てもその日本側のカウンターパートとして相応しい人物が総裁選候補には見当たらない。

アメリカ大統領だけではない、プーチンや習近平とも交渉にあたらなければならないのだが、自民党総裁候補のどの顔もそれら首脳と交渉の場でやり取りをしている姿がイメージできない。

今日、日本記者クラブでそれら候補者が会見に出席し、抱負のようなものを語っていたがどの候補者も具体性がなく、さっぱり理解できなかった。

経済について語った候補が何人もいて、それぞれ「経済成長」、「経済再生」、「所得倍増」といったキーワードを振りまいていたが、どう実現するのか何も語らずじまい。

しかも経済政策について語るのであれば、これまでの「アホノミクス(安倍)」や「新しい資本主義(岸田)」についてまずは総括、反省すべきだろう。

それらについての言及がいっさいなく、ただ経済成長を目指しますとかいっても、当然ながらまるで説得力を感じない。反省だけなら猿でもできる、というが、それすらできない候補ではいかにも心許ない日本のリーダー選出である。

2024年9月13日

演歌歌手がソウルを歌ったらすごかった

ふと聞こえてきたアレサ・フランクリンの "Think"。だが、アレサじゃない。アレサに似たドライブ感・・・。

なんとそれは、日本の演歌歌手の島津亜矢だった。びっくり。彼女が Aya Shimazuの名で出したアルバム「Aya's Soul Searchin' - Aretha Franklin -」からだった。


さっそくアルバムを聴いてみたところ、「Think」「Respect」「A Natural Woman」などアレサの初期の曲が中心に組まれていた。いやあ、ほんとに驚いた。着物姿しか思い浮かばない演歌歌手がこれほどソウルフルな歌を聞かせてくれるとは。

だが考えてみれば、演歌は日本のソウル。それを長年唄ってきているのだから、ソウルを愛する歌心と歌唱技術があれば、確かに唄いこなせるわな。

それにしてもお見事。

https://tatsukimura.blogspot.com/2021/11/blog-post_13.html

2024年9月10日

大手銀行の対応について思うこと

高速道路を走っているトラックに狙いを付け、その車がパーキングエリアに入ったところで「飛び石で高級車が傷ついた」とか 「ボルトが飛んできて当たった」 などと運転手に言いがかりをつける。

そして、彼らの運転免許証をスマホで撮影しては、それを使ってクレジットカードを偽造することを続けていた3人組が捕まったというニュース。

トンデモナイ連中がいたものである。

この事件を受け、警察はむやみに顔写真や住所の入った身分証明書の撮影に応じないように注意を促しているらしい。

それで思い出したのが、先日の三井住友銀行新横浜支店でのできごと。

口座開設のために訪店し、店内の案内係に用件を告げたところ、身分を証明できるものがあるか聞かれたので免許証を出した。「そこに座ってお待ちください」と言われ、しばらく待たされた。

手渡した免許証が気になり、近くにいた行員に免許証を返すように言ったら、「いま奥でコピーを取っていますのでお待ちください」と。 

本人にコピーをとって構わないかと確認することもなく、人の免許証を勝手に複写していたのである。

その支店においてはそれ以外にも首を捻らないではいられないおかしな対応がいくつもあった。近頃の銀行の支店では、こんなことを平然とやってるのかね。

気になって支店長宛にこの件について親展で手紙を送ったが、知らんぷりである。

2024年9月9日

日本の社員のエンゲージメント・レベル

米ギャラップが今年の初めに発表した「State of the Global Workplace Report」は、日本の情けない現状を示している。https://www.gallup.com/workplace/349484/state-of-the-global-workplace-report.aspx?thank-you-report-form=1

社員の組織に対するエンゲージメントを測定する国際調査で、日本は世界125ヵ国中の最下位(イタリアと並んで)だった。エンゲージメントを持っているとする社員の比率は5%。トップである34%の米国と比較すると、その差の大きさに驚く。

この背景には、安倍政権が打ち出した「働き方改革」が影響していると思っている。有給休暇をしっかり取ろうとか、早く帰ろうとか、会社を出たら仕事のメールは見ないようにしようとか、まるで企業で働く大人を子ども扱いして、結果、社員をスポイルした。

休暇を取るなと言ってるのではない。必要であれば、遠慮なく取ることだ。ただし、自分で考えて行動すること。従業員が自由にやればよいことで、人から言われて決めるようなことではない。

政府が箸の上げ下ろしまで監視して注意勧告することで、それまで自然に生まれていた社員と会社の「大人の関係」が薄れてきた。

休め、休め、と言われて、社員にとって、会社はできれば行かなくても済む場所であってほしいところになった。そうした場にエンゲージメントを持てという方が無理というものだろう。

それぞれにとっての働き方を各自が考え、必要に応じたものに変えていく。企業はそれを理解し、支援する。そうした意味での真の働き方改革は必要だ。しかし、それが政府の政策として「働き改革」と括弧に入れられてしまうと、本質から外れた役所の紙の上のアイデアに堕する。

働き方改革関連法案が2019年4月より施行された背景には、日本企業の生産性の低さ(G7のなかで最低)への懸念があったが、施行から5年以上が過ぎた今も生産性の低さは変わっていない。そして、生産性だけでなく、エンゲージメントも日本は世界の最低レベルになった。

本当にやるべき事は何だったのか、振り返ってもいいじゃないのか。

ただこの調査、英語を日本語に直した質問票をもとに調査が行われたはずだが、その際に「エンゲージメント」をどう日本語にしたのかが気になるところはある。

2024年9月5日

パンドラの箱が開いた

『サピエンス全史』が日本でも多くに人に読まれたユヴァル・ノア・ハラリの新作は、Nexus: A Brief History of Information Networks From the Stone Age to AI 。Nexusとは、結びつきとか関係の意味。

ランダムハウスから9月10日の出版予定になっているが、米国の新聞にその一部が掲載されていた。

In the early days of the internet and social media, tech enthusiasts promised they would spread truth, topple tyrants and ensure the universal triumph of liberty. So far, they seem to have had the opposite effect. We now have the most sophisticated information technology in history, but we are losing the ability to talk with each other, and even more so the ability to listen.
人間同士で話し合う能力を失いつつあり、ネット上のボットをまるで自分の友人や恋人のように感じて「つき合って」いる人たちがすでに世の中には少なからずいるらしい。

その本では、2021年にウィンザー城に侵入してエリザベス女王を暗殺しようとした若者が、彼のガールフレンドであり、指南役のチャットボットからその指示を受けていたことや、2022年に当時グーグルのエンジニアだった男性が、自分が開発したチャットボットが意識を持っており、電源を切られることを死と感じて恐れていると主張し、そのボットを守ろうとした末に会社から解雇されたことが紹介されている。

驚きだ。人間の心情を理解し、推測し、自己の生存を守るために人間を騙すことすらおこなうAIが誕生していることが明らかになっている。

AIはただ賢い(計算が速い)だけでなく、すでに人間のふりをして「そこに存在しようとする」ことを覚えてしまったらしい。

それを阻止するためにはどうしたらよいのか。アルゴリズムで解決できるのか。いやそれは難しそうだ。アルゴリズムが人の心理を誰よりも学習し、自ら各種のコンテンツを作成して人間を欺くことができるようになっている時点で、それを人間がアルゴリズムで解決するのは無理というものである。

ではどうしたらよいかといえば、現状では分からない。人間のこころのポケットに、いつの間にか忍びこむ悪魔が登場したともいえる。

ハラリは、ボットが人間のふりをする行為は禁止されるべきだと警告を発する。そして、大手テクノロジー企業やリバタリアン(自由至上主義者)が、そのような措置は言論の自由を侵害すると不満を言うなら、言論の自由はボットではなく人間に与えられるべき人権であることを彼らに思い出させるべきだと主張する。

問題はすでに顕在化しているが、解決への道筋は遠そうだ。なにより一番難しいのは、ロシアや中国、北朝鮮を含めた全世界で徹底したルール作りができない限り、有効的措置にはならない点である。

2024年8月31日

コンタクトサービス(株)という詐欺会社

地方に住む老親のもとに、「NTT西日本コンタクトサービス株式会社の●●」と名乗る男から電話があった。

電話料金が安くなるので回線契約を変更しないかというセールスである。電話にでた母親が、今使っているインターネットのプロバイダーが変わると困ると言うと、プロバイダーが変わっても同じメールアドレスを使い続けられるから大丈夫と説明した。ただし、プロバイダーはビッグローブに変更になると言った。

帰省時にこのことをたまたま知り、おかしいと思った。調べると、NTT西日本コンタクトサービス株式会社なんて会社は存在していなかった。営業電話をかけてきたその男が残した電話番号で所在を調べると、その会社は札幌市西区にあるコンタクトサービス株式会社という会社で、コールセンターの経営やプロバイダーの取り次ぎ代行業務をやっていることが分かった。

NTT西日本の回線営業の仕事を受けているんだろう。 また、ビッグローブに連絡し、コンタクトサービス(株)について訊いてみると、彼らの販売代理店であることも分かった。

腹立たしいのは、自社の名前に「NTT西日本」を勝手に付けて名乗っていること。そのやり口で地方に住む老人を安心させ、そしてだまして回線契約を結ばせる手口をこの会社は取っている。 

こうしたセールスのやり方は、準詐欺罪にあたる。違反したときの罰則は、詐欺罪と同じく懲役10年以内だ。

消費者庁に連絡した。今後も同様の報告があれば、何らかの行政処分がとられるはずである。

セコい手口で田舎の年寄りをだまそうとするんじゃないよ、馬鹿タレどもが。