ひさしぶりに日本に帰国したら、斜め前に建つマンション全体が黒いネットで覆われていた。
マンションの大規模修繕らしい。建物の周りに組まれた足場を行き来する職人たちの姿がネットを透かして見える。工事は、予定では3ヵ月かけておこなわれる。その間、なかに住んでいる人たちは紗のかかった目隠しをされているようなもので、さぞ迷惑なことだろう。
ところが、僕の住む集合住宅も大規模修繕に向けた話し合いが行われていて、来週あたりには管理業者の入札があるらしいことを知った。自身は部屋のオーナーではないので、何がどうなっているのかといった詳しい話が直接は届かず、知らなかった。そもそも外国にいたし。
予定だと、本年中に大規模改修の作業が始まることになりそうで、実に憂鬱な気分だ。
始まると、騒音がうるさい、ホコリっぽい、洗濯物が干せない、中を覗かれる(気がする)。何と言っても部屋からの景観がなくなり、日差しが注がなくなる。バルコニーに寝そべり本を読んだり酒を飲むことも出来なくなるのも辛い。
いいことは何一つ考えられない。そもそもマンションの大規模修繕ってのは、通常は外壁の洗浄と塗装が中心。つまり外面(そとづら)を塗り直すことで、建物を少しでもキレイに見せることに主眼が置かれている。歳とって顔の皺が増えたのを、これまで以上にファンデーションを厚く塗って隠そうとすることと同じ。
人間の体に例えるなら、その血管や神経に相当する給排水管や通信回線などを改修しなければ、日々の生活のクオリティには影響しないのだが。
外からの見栄えを良くすることで、マンションの資産価値の減少を保とうというのだろうが、その発想がどうにもみすぼらしくて嫌だ。そんなことが資産価値の向上に寄与するという社会の価値観がバカバカしい。
僕のように賃貸で住んでいる者にとっては、外壁をきれいにすることに意味はない。それどころか、そのことで今払っている月々の家賃を引き上げられたら泣きっ面に蜂だ。
一般的に修繕業者に支払う金額は、1戸あたり100万から125万円といったところらしい。5000万円の予算があれば宅配ボックスを増やすことで住民の利便性を高め、ルーフテラスを緑化して住み心地を良くし、さらにそこでバーベキューなんかできるようにしてもお釣りがしっかり残るのに。
しかも修繕工事費用は、多くがブラックボックス化されている。施工を行う業者によって、専門用語を多用した素人には分からない工事項目とそれらの金額を並び立てた工事見積もり書が作成される。それら業者にしてみれば、赤子の手を捻るようなものである。
工事業者や管理会社などの有象無象が結託し、住民の修繕積立金を吐き出させる仕組みである。痛みを受けるのは金を積み立てた住民だけ。しかも、ほとんどの場合、一般の住民はそうしたことを知る由もない。
大規模修繕工事なんてやめればいい。わざわざなんでそんなことやるんだろうと、つくづく思う。