2025年2月8日

「ファスト&スロー」

ホンダと日産が経営統合に向けての基本合意に達したとする報道を目にしたのは昨年12月半ばのこと。両社は、同年の3月から統合について検討をしていたという。

統合のやり方は、両社で持ち株会社を設立するかたちになりそうだと。そこへの三菱自動車の合流も俎上にのっていた。

ところが三菱自動車がそうした統合話から降りたと思ったら、ホンダと日産の統合の協議もいきなり破談になってしまった。ホンダが日産の子会社化を言い出したのに対して、日産の経営陣が反発して基本合意書を破棄することにしたらしい。

ここで気になるのは時間の流れだ。ホンダの三部社長は会見時、話の端々に「スピード」という言葉を発していた。その一つは中国や米国の新興自動車メーカーの驚くほどのスピード感のある経営であり、もう一つは日産側の意思決定のスピード感のなさである。 

ホンダは、日産と一緒に経営のテーブルを囲むようになったら、とんでもなくスローな会社になってしまうと危惧したのではないだろうか。 

認知心理学者でノーベル経済学賞受賞者のD・カーネマンは、『ファスト&スロー』でシステム1とシステム2という2つの思考モードについて述べている。システム1は直感によるすばやい意思決定につながるもの。一方、システム2は時間をかけて行う知的活動をともなう合理的判断である。

ホンダの社長が会見でぼやいていたように、日産側の統合に向けてのプランニングはずいぶんスローだった(システム2の利用)。ところが、ホンダが日産を子会社化するという案を出した後の、今回の日産・内田社長の「受け入れられない」という経営統合破棄にいたる決定は実にクイック(ファスト)だった(システム1の利用)。

日産の経営陣は、子会社になった場合の日産自動車の5年後、10年後の姿について情報を多角的に集め、検討、熟慮したのだろうか。

ただホンダに対しての<オレたちを馬鹿にするな!>というプライドへの感情的こだわりが、内田社長の「ノー」の背景にあったように思えた。

それって経営か? 

現在、時価総額で日産はホンダのわずか5分の1、トヨタの30分の1である。合理性でなく感情による判断を優先し、自動車会社であるにもかかわらずクルマを売れる経営ができていない今の同社の経営陣に、企業を再生する能力があるとは思えない。

今の経営陣のもとではこのまま潰れるか、どこかに買収されるしか道はないだろう。