2023-09-05

年寄りはメチャクチャなくらいがちょうどいい

現在公開中の『春に散る』は、沢木耕太郎の新聞小説を原作にした映画である。

実は映画を見てから、原作の小説を手に取った。書棚の片隅に置いていたその本は2017年発行の初版本だった。

映画のなか、佐藤浩市が演じる初老の元ボクサーの年齢ははっきりとは明らかにされていない。佐藤本人は63歳なので、それくらいかという印象だった。

小説で描かれた主人公である広岡は26歳で日本を出て米国に渡り、40年ぶりに初めて帰国したということなので、66歳に設定されていた。66歳、微妙な年齢である。一昔前なら、もう現役の第一線から退いた引退者の一角を占めているわけだが、いまはどうなんだろう。

映画の中で印象的だった、佐藤浩市演じる元ウェルター級のボクサー広岡仁一が、若いボクサーの黒木に向けて放つ台詞がある。広岡からボクシングを教わる黒木から「言ってることがメチャクチャじゃねえか」と言われ、広岡は「年寄りはメチャクチャなんだよ!」と返す。この台詞は、沢木の原作には書かれていない。

前言を翻すといったことではなく、「今」を生きる感覚で、理屈ではなく直感的に判断をすると、そうなるのである。

若い連中には理屈に従って秩序正しく真面目に生きてほしいが、俺たち年寄り(都合がいいときはそう言っておく)は好き勝手言って、好き勝手やって、メチャクチャなくらいがちょうどいいのである。

「春に散る」は、もうひとつの「あしたのジョー」である。