2023年6月26日

DXはドンクサイの略

ある女優の一人芝居を観に行きたくなりチケットを探した。東京公演はすでにすべて販売終了で、地方公演のチケットがまだ残っていたのでそちらを予約することにした。

前にも書いたことがあるが、ネットでのチケット予約にはどうも腑に落ちない点が多い。まず手続きが必要以上にややこしく、手数料も納得がいかない。すべてシステムで予約を受け付けるので、チケット販売のエージェントは素知らぬ顔なんだろう。我々にとって面倒だったり、プロセスがスムーズなものでなくても自分たちは痛くも痒くもないからだ。

利用者は、S席とかA席の括りで席を選ぶようになるが、その際、会場のシートマップが表示されないのはなぜなのか。システム的には簡単なはず。S席とA席の割合をどうするかなどは興行主の思わく次第だ。一列違えばSとAに分かれる。それで価格が30%異なる。
 
以前はS、A、B、Cと4種に分かれていた席種も、今は多くがSとAの2つなのも疑問。売り手が勝手をやってる。

ネットで飛行機のチケットを購入する時、多くの利用者はその機のシートマップからフライトの空き具合を見て、自分が座る席を選んで予約する。しかも飛行機のチケットは、予約後のキャンセルや変更が可能だ。購入した航空券は自宅でプリントアウトすれば済む。
 
ところが、芝居やコンサートのチケットはと言えば、自分がその会場のどこに座るかという基本条件すら示さず、しかも一旦予約したらキャンセルできない(返金しない)。チケットは自宅でプリントアウトすれば済むものを、なぜ客にコンビニまで足を運ばさせ、そこで発券手数料を課すのか。コンビニでの発券手数料を、後でチケット業者が按分させているとしか考えられない。手間も金銭的出費も、ツケはすべて利用者に回されている。

以前こんなことがあった。なるべくいい席を取りたいとS席を予約したところ、その席は広い会場の1番端っこだった。しかもS席ブロックの最後列だった。こんなことであれば、A席で真ん中あたりの席の方がよほどコンサートを楽しめたはずだった。

なぜ、こうしたことが起きるか。業者がとにかくチケットをさばき、一刻も早く入金させることしか考えていないから。訪れる観客がコンサートを楽しめるか、芝居を楽しめるかなんてことは一切気にしていない。期待する方が無理か。

チケット屋が扱っているのは、芝居やコンサートの「席」だ。文字通りの席(椅子)ではなく、ある日のある時間にその場所を所望している顧客がそこにいられる「権利」だ。モノではなく無形のサービスなので、ネット上での販売や決済にもっとも適している商材と言える。

にもかかわらず、日本のチケット業者のやっていることといったらこのようにお粗末極まりない状況である。やろうと思えば、顧客の納得感を得られる仕組み作りは簡単にできるはず。DXなんて言葉があったが(今もそうした言葉で仕事をねだってるコンサル会社もあるようだが)、チケット販売業者がやっているDXはドンクサイの意味としか思えない。

こんなことでこの国のパフォーミング・アーツのお客さんが増えていくとでも思っているのだろうか。この手の問題が解決されない理由のひとつが、こうした分野のジャーナリストにある。新聞や雑誌に提灯記事、いや失礼、劇評やコンサート評を書いているその分野の専門家とされる連中のこと。彼らは自分でチケットを買わない、自分でチケットを予約してコンビニ店頭で発券してもらわない。なぜなら、放っておいても主催者から招待されるから。
 
だから、実状を知らない。いや、知らないことにしているのだろう。それ故に発言しようとしないし、業界も変わらない。