2015年3月22日

人の働き方とリーダーシップ

昨日の番組「木村達也 ビジネスの森」は、前伊藤忠商事会長の丹羽宇一郎さんにゲストに来ていただいた。対談のもとになったのは、丹羽さんが書いた『負けてたまるか! リーダーのための仕事論』(朝日新書)。


彼は伊藤忠商事では、社長に就任すると当時およそ4000億円あった不良債権を一括処理することで翌年度の決算で史上最高益を計上したことで知られている経営者である。実に、思い切りがよいのである。こうしたことは、できる、できないということより、やるか、やらないかという問題だから。

番組での発言も非常に歯切れがいい。明快だ。


日本の企業内で働く人の4割近くが、非正規社員と呼ばれる雇用形態で仕事をしている。丹羽さんは、そのことを危惧している。企業の社内での教育というテーマから、正規と非正規という雇用のことに話が移っていった。

番組内で話された際のその理由としては、企業としてはいつ辞めるかわからない社員に時間を金をかけて教育はできない、そのために社員の能力を高める機会を逸して長期的にその企業は競争力を失っていくという点をあげられた。

だから経営者は、安易なコスト削減の一法としての社員の非正規化は止めるべきだと指摘する。

たまたま今朝の日経新聞「日曜に考える」欄で、丹羽さんと政策研究大学院の太田弘子氏が、同様のテーマで対談をしている。そこで丹羽さんは、雇用と報酬の安定を考えて、経営者は非正規社員の9割くらいを正規社員化すべきだと述べている。

一方、太田氏は非正規を問題とは捉えていない。彼女によれば「非正規そのものが問題ではない。正規との格差があまりにも大きくて、いったん非正規になると正規になる道がなくなってしまうのが問題だ」となる。

これは一見まともな解釈に聞こえるが、明らかに現状を無視している。僕には先の彼女の発言は「貧困そのものが問題ではない。金持ちとの格差があまりにも大きくて、いったん貧困になると金持ちになる道がなくなってしまうのが問題だ」と読めてしまう。どうも新自由主義的立場からは、非正規社員が正規社員になれないのも、貧困者が富裕層になれないのも「自己責任だから」となる。

 丹羽さんの「なんで非正規にするのか。給料が安いからか」という発言に、太田氏は「そうではない。短時間だけ働きたいという人がいるからだ。派遣を望む人もいる」と返している。これも理屈がおかしい。

子育てや介護、その他種々の理由で短時間だけ働きたいという人はいる。あえて派遣が自分に相応しいという人もいる。しかし、そのことと非正規社員か正規社員かという問題は、別の問題だ。

彼女は短時間だけ働きたい人たち、派遣で働きたい人たち=非正規を望んでる、と考えているようだけど、そうではないと思う。そうした人たちだって、多くは正社員を望んでいるはずだ。短時間だけ働く正社員だってあり得るし、派遣元に正社員として雇用され、派遣先で働くという働き方だってあり得るのである。そもそも「正規社員」の理解の仕方が一面的なのだ。

いずれにせよ、脱時間給制度とか残業ゼロ法案とか、そうしたことは働く個人と企業との間で決定されることであって、政府が規制をすることではないように思えてならない。こんなことまで手取足取りやられなければならないほど、日本の経営者も働く人たちも愚かではないはずだが。

今朝の一曲は、ブルース・スプリングスティーンの Born in the USA から"No Surrender"。