2014年6月28日

「ここには何もない、があります」

今朝のNACK5「木村達也 ビジネスの森」にお招きしたのは、千葉県の房総を走るいすみ鉄道の社長、鳥塚亮さん。


彼は5年前に社長公募に応募して、ローカル線の経営者になった。いすみ鉄道は、駅数14、路線長26.8キロ、日本の典型的なローカル線である。沿線には全国的に有名な名所旧跡があるわけではない。内陸部を走るので、太平洋の風景が眺められるわけではない。

けれど、そこにはのどかな日本の里山の風景がいまも残っている。それを無理をせずに、分かってくれる人たちにだけ訴えかけている。

「ここにはなにもありません」というポスターを駅や電車に貼ったらしい。以前、都会から来た観光客が駅で「せっかく来たのに、ここには何もないじゃないか」と怒っているのを目にしたという。すみませんと頭を下げているのは、ボランティアで鉄道を支援してくれている地元の方々だった。

それを見て、これじゃあいけないと思ったのがきっかけだったとか。地元の方が、地元のあるがままの姿を観光客に否定されたり、なじられたりすることの間違いを起こしてはいけないと思われたのだろう。

そこで、彼が考えたのが、「ここには何もない、があります」という逆転のポジショニングである。すばらしい!

9割の人が無視しても、1割の人が興味を持ってくれればいい、そしてそのまた1割が年に1度きてくれればいいと。自分たちの身の丈を知っているのである。「いすみ鉄道なんて、たいした鉄道ではありませんから」と、はばかることなく公言する。しかし、それがファンを引きつけ、長くじっくりと愛される秘訣。戦略的なのである。

事実を曲げたり、あるいは針小棒大に語って集客に成功しても、そんなものはすぐにばれるものです。一時でも客さえ集まればいいというのは、よい経営ではないことを鳥塚さんはよく分かってらっしゃる。



彼が以前つとめていた航空会社(ブリティッシュ・エアウェイズ)は、僕の昔の職場でもある。彼は成田空港で運行部長として、僕は都内でマーケティングの仕事をしていたのだけど、番組の打合せ時には共通の知り合いの話で大いに盛り上がった。

今回、番組に先だってBA時代の友人に連絡を取ろうとして分かったのは、以前、東京で行っていた日本路線のマーケティングはいまはロンドン・ベースで行われるようになり、日比谷にあった予約センターは香港に移ったということ。日本国内の高い人件費や共同運航便を飛ばす他の航空会社(日本航空)との関係からの判断のようだ。

LCCに代表される価格の安い航空会社の台頭に、伝統的な航空会社は対応に苦慮していることがうかがえる。構造的な問題であり、今後も変化がつづくのだろう。

下は鳥塚さんのブログ。面白い。
http://isumi.rail.shop-pro.jp/ 

今日の挿入曲は、ドゥービー・ブラザーズのロングトレイン・ラニング。トム・ジョンストンが作詞作曲した曲で、彼らのサード・アルバムに収められている。学生時代から聞いていて、忘れられない曲のひとつ。