誰が言い始めたのか、顧客による店頭での迷惑行為(言動)が「カスハラ」と呼ばれるようになった。カスタマーハラスメントを縮めた新語である。
その後、「カスハラ」が市民権を徐々に持ち始めると、企業は店頭での客から店員への暴言や嫌がらせだけでなく、店あるいは企業が迷惑だと考える客による行為を「カスハラ」と呼ぶようになった。例えば、コンビニの店頭に若者たちが集団でたむろしている状態やゴミの投げ捨てなどである。
そうした行為を「カスハラ」と呼ぶことで注意を喚起して止めさせようという意識である。迷惑だと思うのであれば、自らが相手に対峙して注意をすればいいのに。それができないから、「カスハラ」の社会的話題に乗じて、社会的に圧力をかけて自分らにとっての問題を解決しようとしている。
日本で用いられている意味で「カスタマーハラスメント」が用いられている例は、海外では極めてまれだ。
今年の10月、英国のFinancial Times は東京都がハラスメント防止の条例を発布したのを記事にしているが、そこでは下記のように顧客からの迷惑行為は customer nastiness、日本のカスタマーハラスメントは kasu-hara と表現されている。
Officials in the Japanese capital are drawing up guidelines to accompany the new ordinance, which was passed by the metropolitan assembly last week to tackle customer nastiness known by the abbreviation "kasu-hara".
(日本の首都の役人は、カスハラの略称で知られる客の迷惑行為に対処するため、先週都議会で可決された新しい条例に付随するガイドラインを作成している)
学術論文ではどうかと調べたら、コトラーと並ぶマーケティング界の泰斗であるJ. N. Sheth が、2001年の彼の論文のなかでcustomer harassment について言及していた。
ただしそれは、その頃台頭していたEメールをツールとしたマーケティング手法に関しての内容であり、企業から顧客に向けて送られてくる山ほどの販促用メールをcustomer harassment、つまり顧客にとっての迷惑行為と表現したものだった。
そこからも、英米人には容易に通じない和製英語である「カスタマーハラスメント」を生み出し、それを行政によって条例化していこうとする日本社会の不思議さを感じる。
厭なことをされたら、客であろうが誰であろうが、その場で「やめてくれ」と言えばいいのだ。難しいことを考える必要はないのである。