2020年1月13日

映画「パラサイト 半地下の家族」のブラック・ユーモア

外国のことながら、「こんな家族いるだろうなあ」と思わせてしまうセッティングがうまい。家族の構成とチャラクター設定が絶妙で、ここに樹木希林さんがいたら・・・と鑑賞中にとふと思ったりして。

最初は喜劇だが、最後は悲劇。いや、やっぱり喜劇か。グロテスクさと笑いが、ポン・ジュノ監督の持ち味だ。映画の中で何人か人が殺されたりするが、全編を通じて流れてくる「おかしな」空気に何度も声を上げて笑ってしまった。なぜか劇場のなかで僕だけだったけど。


主人公たちの家族は、キム一家。彼らがパラサイトしていく先は、パク一家。キムさんとパクさんは、日本だと鈴木さんと山田さんか。武者小路や伊集院とは違う。どっちがどっちでも入れかえ可能だ。だけど、この2つの家族は何かの理由でまったく違う家族として、同じ時に同じ町に暮らしている。

日本語の映画タイトルにある「半地下の家族」は、キム一家が暮らす住まい。そこは映画のための想像上の生活空間ではなくて、もともとは北朝鮮からの攻撃に備えた防空壕として作られ、韓国内にはまだそれなりの数が残っている。

半地下だから陽の光があまり差さない。湿気が多く、かび臭い。そして、便器の奥から下水が逆流してこないように、トイレが部屋の中で一番高い場所に設置されているのには苦笑するしかない。

キム一家は誰も定職を持っていない。実際に韓国では定職に就くのは、今は簡単なことではないらしい。先進国はどこも格差が広がる一方だ。だが、この家族4人は立派な学歴や肩書きはなくても、みなが才能揃いとも見て取れる。

3浪中の息子はその経験を活かしてパク家の高校生の娘に受験勉強を教えるのがうまい。美大希望の娘は機転が利き、わがままでパク夫妻が手を焼いている息子もあっという間に手なずけてしまう。元ハンマー投げの選手だった母親は、その家の家政婦として料理や家事に腕を振るう。

そして職を転々とし、やがて事業に失敗して失業中の父親は、IT企業の経営者であるパク家の主人の運転手としての技量だけでなく、雇い主の気持ちに添った会話がしっかりできる人生の経験者だ。

だからこそ、今置かれた貧しい暮らしを恨んだりする前に、どうやてって抜けて出て這い上がるか「計画」をいつも立てて実行している。すこぶる前向きなのだ。映画では、そこにある種の救いとともに不条理さがにじむ。

そして後半に登場する、半地下よりも「下」で続けられていた人物の生活。やがて起こる、半地下生活人と地下生活人の衝突と闘い。社会の片隅に押しやられた人たちに突きつけられる悲しさと可笑しさが最後に残った。